相続の手続

相続の手続きについて

一概に相続の手続といっても、どんなものがあるのか、何から準備すれば良いのか、分からない方がほとんどだと思います。

相続が発生したら、まず遺言書の有無の確認をはじめ、遺言書の種類によっては扱い方が異なります。また、相続財産の調査及び把握のうえ、相続発生後3か月以内に相続放棄・限定承認・単純承認の選択が求められます。遺言書がない場合は、遺産分割協議を実施し、遺産分割協議書の作成を計画的に進めることが大切です。

相続人調査

相続手続きを行うためには、法定相続人を確定させる必要があります。そのために故人の戸籍謄本を使用し、法定相続人は誰なのかを確定する必要があります。故人の戸籍謄本を取得し相続人調査を行っていると、今までその存在を知らなかった前妻との間の子・認知している非嫡出子・養子縁組など、衝撃の事実を知ることがあります。

これらのすべてを明らかにせず、「法定相続人は家族だけだろう」と思い込んで相続手続きを進めてしまうと、後から発覚した場合に、相続手続き全てがやり直しになることがあるため、基本的に相続人ご自身で行うものですが、難しい場合は専門家に依頼しましょう。

遺言書

遺言書がある場合は、故人の遺志を尊重して、遺言書の通りに遺産を分割することになります。

遺言書の検認の申立

遺言書の検認とは、一言でいうと、遺言書の偽造・変造を防止する手続きのことです。家庭裁判所に提出し、相続人の立ち会いのもとで遺言書を開封・確認することで、「故人はこの遺言書を残していました」「こういう内容でした」という確認が行われ、遺言書の偽造・変造を防止することができます。なお、開封は家庭裁判所で行うため、「自宅などで勝手に開封してはいけない」という点にご注意ください。

検認せずに遺言書をそのままにしておくと、相続放棄や遺留分侵害額請求ができなくなり、相続税申告の期限に間に合わなくなるという弊害が起こりえます。遺言書の検認申し立て自体は、家庭裁判所に申立を行うだけで比較的簡単な手続きなので、個人で検認を済ませることは容易です。

しかし、申し立ての準備段階で相続人が誰になるか確定させたり、相続人全員の戸籍謄本を集めたりする必要があり、準備が大変になることが予想される場合もあります。もし、不安に思われるようでしたら専門家に依頼した方が、安心且つ手続きがスムーズです。遺言書の検認は申立から数週間~2カ月程度かかるので、早めに動きましょう。

遺言執行者の選任申立て

遺言書を作成しても、遺言者が亡くなった後で遺言書の内容が自動的に実現されるわけではありません。遺言書は、誰かが実際に金融機関で手続きをしたりすることで、初めて内容が実現されるものです。

この遺言書を、記載されている内容通りに実現する役割を担う人を「遺言執行者」といいます。遺言書で相続人廃除をする場合や廃除の取消しをする場合、遺言で認知をする場合においては、遺言執行者がいなければ実現することができません。

また、遺贈をする場合や相続人による円滑な執行が難しい場合は、必須ではありませんが、遺言執行者がいた方が滞りなく手続きを進めることができます。遺言執行者の選任方法には、①遺言書で選任する②相続開始後に家庭裁判所で選任してもらう2つの方法があります。なお、家庭裁判所に遺言執行者選任の申立てができるのは、遺言者が亡くなり、遺言書の効力が発生した後になります。遺言者の生前に、家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てることはできません。また、遺言書が自宅などで保管していた自筆証書遺言は、遺言執行者の選任申立てに先立って遺言書の「検認」を受ける必要があります。

遺言執行者には特別な資格は必要なく、家族やその遺言で遺産を渡す相手なども遺言執行者になることができますが、相続人間に争いがある若しくは争いが生じる懸念がある場合、自社株を相続させるなど、確実かつ速やかに遺言執行が必要になる場合は、弁護士などの専門家への依頼を検討した方がよいでしょう。

遺産分割協議

遺言書が無い場合は、法定相続人全員が参加する、遺産分割協議の開始となります。遺産分割協議は相続人全員の参加が条件となっているため、普段関わりのない遠方の方とも話し合いをしなければならない事態も想定されます。となると、相手の強引な主張を無理やり飲まされたり、遠慮から自身の主張が思うようにできなかったりと、自分にとって不利な条件で遺産分割協議が進んでしまう恐れがあります。

遺産分割協議において、弁護士の力を借りればより法的な根拠を元に自分の取り分を正当に主張することができますし、強硬に交渉を進めるだけではなく、遺産分割後の親族同士の関係性なども考慮しながら、最善の形で交渉をまとめていくことができます。

単純承認

相続財産を調査・把握したうえで、相続財産をどのように相続するか(相続の態様)を決める必要があります。相続の態様としては、①単純相続、②限定承認、③相続放棄の3種類があります。相続の態様の決定は、相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所に申述する方法により行わなければなりません。この期限を過ぎると、単純承認をしたものとして取り扱われることになります。なお、この3か月という期間は、家庭裁判所の許可を経て伸長することもできます。

「単純承認」とは、いわゆる普通の相続のことであり、相続財産のすべてを承継します。限定承認・相続放棄と異なり、特別な行為をする必要はありません。単純承認は、相続財産の中のプラスの財産がマイナスの財産よりも多い場合には選択肢の一つになり得ます。もっとも、マイナスの財産がプラスの財産よりも多い場合には思わぬ借金を背負ってしまうということもあり得るため、単純承認をする際には慎重な判断が必要となります。

限定承認

「限定承認」とは、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務および遺贈を弁済すべきことを留保して相続を承認することです。つまり、承継した財産を換金して負債の弁済に充てるけれども、それ以上は責任を負わない、という方法です。相続することを知ったときから3ヶ月以内に、被相続人の財産目録を作成した上で、家庭裁判所で手続を行う必要があり、尚且つ、相続人が数人ある場合、相続人の全員が共同してのみこれをすることができるとされています。

したがって、限定承認は、相続人が全員そろってこれをしなければならない(相続人の一部の人だけで限定承認をすることはできない)という点に注意が必要です。限定承認の手続はやや煩雑で、個人での対応は難しいといえます。また、税金の問題も内包しているため、弁護士に相談することをおすすめいたします。

相続放棄

相続放棄をする場合には、相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ、相続放棄の申述書と必要書類を提出して申立をします。相続放棄は、もしこの3ヶ月以内に何もしなければ、被相続人の資産も負債も、すべて各々の相続分に応じて相続してしまうことになります。また、相続人全員で行う必要はなく、1人だけで相続放棄を行うこともできます。

相続放棄をすると、相続の放棄をした相続人は、その相続に関しては最初から相続人にならなかったものとして扱われます。そのため、第1順位の相続人の全員が相続放棄をした場合、その者らは相続人ではなかったことになることから、民法889条1項に定められた順序で相続権(被相続人を相続する権利)が移っていくことになります(相続放棄の場合には、代襲相続は起こりません)。

第1順位の相続人全員が相続放棄をしたにもかかわらず、第2順位の相続人以降が相続放棄をしなかった場合、被相続人の債務は第2順位の相続人に引き継がれてしまい、債権者からの請求にさらされます。このような事態は親族間のトラブルの発端にもなるため、被相続人の相続関係を戸籍によって確定し、次に相続権が誰になるか判明したら事前に伝えてあげた方がトラブル回避にもなります。

代襲相続(だいしゅうそうぞく)

相続人である子どもや兄弟姉妹が、被相続人よりも先に死亡しているなどの場合に、その者らの子ども(被相続人との関係では、孫や甥・姪)が代わりに相続人になることを「代襲相続」といいます。被相続人よりも先に死亡した子どもや兄弟姉妹のことを「被代襲者」、代わりに相続人となる被代襲者の子どもを「代襲者」といいます。
代襲相続の場合、被代襲者に相続権があることが前提となります。そのため、相続放棄の場合と異なり、相続権は次順位の相続人に移りません。

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