はじめに
遺留分侵害請求とは、被相続人が有していた相続財産について、その一定割合の承継を一定の法定相続人に保障する制度です。簡単に言うと、遺留分侵害請求は、遺言や生前贈与によって侵害された遺留分について、これを侵害している相続人などに対してその請求することを言います。
今回の記事では、遺留分侵害請求する場合と、された場合の対応について解説いたします。
<遺留分侵害請求をする場合>
一定の相続人には、承継されるべき最低限の割合があり、例えば、被相続人が遺言や生前贈与で、全財産を特定の子供だけに譲ってしまったような場合に、遺留分侵害請求を行うことが考えられます。
また、以下の場合に、最低限、自分が相続できる財産があるのではないかと思われた場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
・被相続人が、生前に、愛人に大半の財産を贈与していた
・被相続人が、面倒を見てくれた施設や団体に、全財産を寄付する遺言を残していた
遺留分侵害請求の具体的な方法
実際に遺留分侵害額請求を行うために、方法として幾つかあります
(1)相続人間で話し合う
相続は親族間の問題ですので、円満な解決を目指すためには、まずは話し合うことから始めましょう。
ほかの相続人と遺留分についての交渉を行う際には、弁護士に相談をして、客観的な視点から議論の交通整理をしてもらうことをおすすめします。
(2)内容証明郵便を送付する
話し合いがまとまらない場合、訴訟を提起することが考えられます。遺留分に関する事件は「家庭に関する事件」とされており(家事事件手続法244条1項)、訴訟を提起する前に、まずは家庭裁判所に家事調停(遺留分侵害額の請求調停)を申し立てることも可能です(家事事件手続法257条1項)。
遺留分侵害請求は、遺留分を侵害されたことを知った時から1年以内に行う必要があります。口頭で請求しただけでは、後になって、1年以内に請求をしたことを証明することができなくなりますので、必ず書面により遺留分侵害請求を行います。
遺留分侵害額請求権の消滅時効が迫っている場合等には、話し合いの途中であっても、いったん内容証明郵便を送付しておくことが必要になります。
なお、遺留分侵害額請求の意思表示をした結果生じる金銭債権の消滅時効は意思表示をしたときから5年です(民法166条1項1号)。
(3)遺留分侵害額の請求調停
遺留分に関する話し合いがまとまらない場合は、裁判所に対して遺留分侵害額の請求調停を申し立てましょう。
調停では、調停委員が、当事者双方の主張を個別に聞きながら当事者間での交渉を仲介してくれます。
そのため、相続人同士が直接話し合いを行う場合よりも、両当事者が歩み寄りやすくなることが期待されます。
当事者が互いに調停案に合意できれば、調停成立となります。
(4)遺留分侵害額請求訴訟
調停を行っても話し合いがまとまらない場合には、遺留分侵害額請求訴訟を提起するほかありません。
訴訟では、遺留分侵害の事実を証拠により立証する必要があります。
遺留分侵害額の算定方法
遺留分侵害額は、以下の計算式により算定されます。
遺留分=遺留分を算定するための財産の価額×総体的遺留分率×遺留分権利者の法定相続分
遺留分侵害額=遺留分額-遺留分権利者が受けた遺贈または特別受益の額―具体的相続分(寄与分を除く)に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額+相続債務のうち遺留分権利者が負担する債務の額
<事例>
遺留分を算定するための財産は3000万円
法定相続人は配偶者Aと子どもB・Cの計3人
特別受益はなし。
被相続人に債務はなく、遺言書による相続分の指定は以下のとおり
A:300万円
B:2500万円
C:200万円
上記の事例で、AとCの遺留分侵害額を計算してみます。
法定相続人は配偶者Aと子どもB・Cの計3人なので、総体的遺留分率は2分の1です(民法第1042条第1項第2号)。
そして、Aの法定相続分は2分の1、Cの法定相続分は4分の1です(民法第900条第1号、4号)。
したがって、A・Cの遺留分は以下のとおりです。
Aの遺留分=3000万円×2分の1×2分の1=750万円
Cの遺留分=3000万円×2分の1×4分の1=375万円
上記の遺留分の金額から、実際の相続分を差し引くことにより、A・Cの遺留分侵害額が求められます。
Aの遺留分侵害額=(遺留分)750万円-(具体的相続分)300万円=450万円
Cの遺留分侵害額=(遺留分)375万円-(具体的相続分)200万円=175万円
よって、Aは450万円、Cは175万円を、それぞれ遺留分侵害者であるBに対して請求することができます。
弁護士に相談をすれば、上記のような遺留分を算定するための財産の価額等の複雑な計算についてアドバイスを得ることができ、また、代理人として相続人同士の交渉にあたったりするなどして、手続きを迅速に進められます。
<遺留分侵害請求をされた場合>
まずは、本当に遺留分権を持っている相手からの請求なのか、請求されている財産の範囲は妥当なものなのか、これをしっかりと確認する必要があります。
遺留分権者との関係性によっては、遺留分侵害額請求を全く拒否したいと考えるかもしれませんが、適正な遺留分については渡さなければなりません。
また、すでに遺留分権者であるとわかっている場合は良いですが、それすらもわからない相手からの請求の場合は、相手が本当に遺留分権者なのかを確認する必要があります。
なお、もし請求を無視し続けるようなことがあれば、裁判を提起される可能性もあるため、必ず必要な対応を取ってください。
遺留分は遺産総額で変わる
遺留分というのは、亡くなった方の遺産総額によって金額が変わりますし、遺留分が侵害されている総額によっても変わってきます。よって、支払いをする前に、必ず財産の計算に間違いがないかを確認する必要があります。
相手が具体的な金額で請求してきているのであれば、その根拠となる書面を提示してもらいましょう。そうでないのであれば、ご自身が相続された総額を確認するなどし、いくら支払うのが適正であるかを判断します。
遺留分侵害額請求には時効がある
次に注意しなければならないのが、遺留分侵害額請求には時効があるという点です。実は遺留分侵害額請求というのは遺留分権者がいつでも好きなタイミングで出来るわけではありません。時効までの期間は、遺留分侵害額請求ができることを知ってから1年間とされています(民法第1048条前段)。よって、どのタイミングで遺留分侵害額請求ができることを知ったのかについては重要な点です。
その他にも、相続開始から10年以内という期間の定めもあります(除斥期間、民法第1048条後段)。こちらは、遺留分侵害額請求ができると知ったタイミングではなく相続開始、つまり、被相続人が亡くなった日から10年となっているため、勝手に動くことはありません。すでに時効となっている請求については、時効援用という手続きをすれば支払う必要はなくなるので、必ず確認するようにしましょう。
遺留分侵害額請求を拒否することは可能か
遺留分侵害額請求を拒否する方法はあるのかについて、結論から言えば、拒否する方法がある場合があります。
もっとも考えられるのは、遺留分の請求をしてきた方に、生前に特別受益がある場合です。この特別受益は、遺留分権利者が相続によって利益を得たものと計算します。特別受益がある場合には、遺留分権利者の遺留分侵害額は小さくなり、場合によってはなくなる場合もあります。ですから、遺留分を請求された場合にもあわてず、相手から請求が届いた場合、相手からの請求内容をしっかり確認し、その根拠があるのかについても確認しましょう。
まとめ
どうしても交渉がしたくない、交渉してみたけど話がまとまりそうにない、といった場合は弊所弁護士にご相談ください。相手との交渉はもちろん、支払うべき遺留分が適正であるかについても法的な目線から判断させていただきます。特に、遺産の全貌が把握できない場合、適正な遺留分額を計算するのは容易ではありません。場合によっては調停や裁判に発展することもあり得ますので、迅速に対応させていただきますので、どうぞ安心してご相談ください。