はじめに
遺言書には、「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」「公正証書遺言」の3つの種類があり、それぞれ作成方法や保存方法が異なります。
その中でも今回の記事で解説する「自筆証書遺言」は、いつでも好きな時に自分で手書きをして作成することのできる最も簡単な遺言書です。
費用もかかりませんし、自分一人で作成することができます。
ただし、正しい書式で書かないと無効となり、自分が望んだ相続ができなくなってしまいます。そうならないためにも、この記事では「自筆証書遺言」の正しい書き方について詳しく学んでいきます。
「自筆証書遺言」を法的に効力のある遺言とするためには、「全文自筆、日付、署名押印」の3つの要件を満たす必要があります。
その3つの要件について詳しくご説明します。
要件について
要件① 遺言書の全文が「遺言者の自筆」によるものであること
「自筆証書遺言」は、必ず遺言者自らが全文手書きで作成(自書)する必要があります。代筆やタイプライターによる入力、また、たとえ本人のものであっても音声や映像なども全て無効となります。もっとも、遺言者の手指が震えたりするため、他人が添え手をして遺言者による筆記を補助したような場合については、補助した他人の意思の介入が認められないのであれば、当該遺言は無効にならないとされています。
「自筆証書遺言」に使う用紙や筆記用具には特に指定はなく、原則自由です。書き方は横書きでも縦書きでもどちらでも大丈夫です。
ただし、偽造や改ざんを防止するためにも、破れやすい用紙や消すことができる鉛筆、シャープペンシルなどは避け、ボールペンなど消せない筆記用具を使用しましょう。最近人気の消せるボールペンも使わないようにします。
なお、平成31年1月13日より、財産目録に関してはパソコン作成など自筆でなくても良いこととなりました。
要件➁ 作成した「年月日」を正確に書くこと
日付は、遺言の作成年月日が特定できる記載でなければなりません。遺言の作成年月日の記載のない遺言は、無効となってしまいます。また、遺言の作成年月日を特定できない遺言も無効となります。例えば、「令和5年4月吉日」などの記載も、4月1日から30日までの一日を特定できないため無効となってしまう恐れがあります。書き方に特に規定はありませんが、第三者が見ても特定できるよう、「20○○年○月○日」「令和○年○月○日」と、西暦か和暦で年月日を明確に書くのが一般的です。
なぜ遺言の作成年月日の特定が必要なのでしょうか。
遺言では、遺言者の最後の意思が尊重され、遺言書が複数あり、それぞれ日付が異なる場合は、より新しい遺言が優先することになります。したがって、複数の遺言間の優劣を決めるためには、作成日の先後が明確にされなければなりません。また、作成日の特定は、遺言者が遺言時に遺言能力を有していたかどうかを判定するためにも不可欠です。
要件③ 遺言者が「署名押印」をすること
遺言成立の年月日を書いたら、遺言者の住所と氏名を書いて押印します。
その際、戸籍どおりに姓名を自署してください。夫婦共同など連名の署名はNGです。民法では、「遺言は二人以上の者が同一の証書で作成することはできない」と規定されています。どうしても夫婦共同で作成したい場合には、内容は同一のまま用紙を分けて単独の遺言書を作成するという方法もありますが、トラブルの元にもなりますので、注意が必要です。
印鑑については特に決まりがありませんが、トラブル防止の意味からも、なるべくシャチハタや三文判は避けて、実印で押印するようにしましょう。その時、一緒に印鑑証明書を付けて保管しておくと、裁判所の検認の手続きの際にスムーズになります。
また、遺言書が2枚以上になったときは、偽造や改ざんを防ぐため、ホチキスなどでまとめ、署名の下の押印と同じ印鑑を使用して契印あるいは割印をしてください。
最後に
「自筆証書遺言」を作成したら封筒に入れて、「遺言書」と明記しておきましょう。法的な規定はないので、封印がなくても無効にはなりませんが、改ざんを防ぐためにも未開封だということの証明として、念のため押印と同じ印鑑で封印しておくことをおすすめします。なお、令和2年7月から、各地の法務局において自筆証書遺言を有料で保管する制度が開始されました(法務局における遺言書の保管等に関する法律)。遺言書の紛失を防止したり、相続開始後、家庭裁判所における検認が不要等という利点があります。
参考:法務省ホームページ『自筆証書遺言保管制度』
また、今回の記事で紹介したように、自筆証書遺言の要件は、一見簡単そうですが、方式・内容の両面で問題となる遺言が後を絶ちません。有効な遺言を確実に作成するためにも、本記事の内容を参考にしてみてください。記載例については法務省のホームページに掲載されています。こちらも参考にしながら正しい遺言を作成しましょう。
参考:法務省ホームページ『自筆証書遺言書 様式等についての注意事項』