少年事件における弁護人・付添人について

1 はじめに

 少年事件では、成人の刑事事件と同様に、刑罰を科すことで責任を追及するのは妥当でないと考えられています。少年は、一般的に成人に比べて精神的に未成熟であり、自分を取り巻く環境に影響を受けやすいことや、非行を犯したとしても、それは家庭や学校などの環境や、生まれ持った資質や未熟さ等の自分ではどうすることもできない事柄が要因となっていることが多いためです。むしろ、少年は人格が発展途上にあるため、外部からの教育的な働きかけにより短期間で更正しうる存在であることから、教育的な手段を施す方が再非行の防止に効果的です。

 このような少年の特性や少年事件の特殊性にかんがみて、少年事件における付添人の活動においては、少年の健全育成が目的であることを十分に認識し、子供の成長発達権が保障されるよう、少年や少年の周囲へ十分な働きかけをすることが必要です。

 今回は、国選弁護人、国選付添人、私選付添人制度の概要について、取り上げます。

2 国選弁護人

⑴ 国選弁護人とは
 国選弁護人とは、国選弁護制度を利用して選任される弁護士のことです。
 少年事件であっても、捜査段階では基本的に刑事訴訟法が適用されるため(少年法40条)、成人と同じく、少年である被疑者にも国選弁護人が選任されることになります(「被疑者国選弁護人」・刑事訴訟法37条の21項」)。
  なお、少年が逆送(家庭裁判所が、保護処分ではなく、懲役、罰金などの刑罰を科すべきと判断した場合に、事件を検察官に送ること)され、起訴された場合は、被告人国選弁護人として活動することになります。

⑵ 対象事件
 従来の対象事件は「死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役又は禁固に当たる事件」でしたが、2016年改正刑訴法成立に伴い、「被疑者に対して勾留状が発せられている場合」すべてに拡大されました。

⑶ 選任時期
 対象事件について、少年が逮捕・勾留され、少年が国選弁護人の選任請求をした場合に「国選弁護人」が付くことになります。なお、選任請求自体は、勾留請求された時点で可能です。

⑷ 選任の要件
 下記の③の要件とともに、①または②の要件のいずれからを満たす必要があります。
  ① 少年(被疑者)が国選弁護人選任請求書・資力申告書を提出していること(刑訴法37条の31項)
  ② 上記①の国選弁護人選任請求書・資力申告書に記載された資力が50万円以上の場合、少年(被疑者)があらかじめ
     弁護士会に私選弁護人選任の申出をしたこと

 ただし、「50万円以上」の資力のある被疑者は国選弁護人を選任できないわけではない点に注意が必要です。仮に、資力申告書に記載された資力が50万円以上の場合であっても、弁護人となろうとする者がいない場合は、被疑者からの私選弁護人選任申出を受けた弁護士会がその旨の通知をするか(いわゆる「不在通知」)、または、当番弁護士を派遣する等して、弁護士が接見した場合に、当該弁護士が事実上作成する受任しない旨の通知をした場合(いわゆる「不受任通知」)には国選弁護人の選任手続がなされます。なお、ここにいう「資力」には、土地や建物等の固定資産は含まれず、現預金等の流動資産のみで判断されます。

  ③ 貧困その他の事由により弁護人を選任できないこと

 「貧困」かどうかは少年についてのみ考慮し、保護者は考慮にいれません。また、貧困の場合以外でも、知っている弁護士がいない、私選で受任してくれる弁護士がいないなど、私選弁護人を選任できない事情がある場合も「その他の事由」として、国選弁護人の選任が可能です。

 しかし、国選弁護人は国が選んだ弁護人ですので、少年や少年の保護者が自由に選べるわけではありません。そして、基本的には、少年が勾留された時点から弁護士が国選弁護人として付くことになります。そのため、国選弁護人が検察官に対して少年を勾留しないように事前に要請したり、裁判所に対して勾留決定を出さないよう事前に意見書を提出することは事実上できないことになります。

 また、国選弁護人には、国選弁護人になるための厳しい資格要件などが課せられているわけではないので、あまり少年事件・刑事事件の知識・経験がない弁護士が国選弁護人になることもあります。

3 国選付添人

 ⑴ 国選付添人とは
 罪を犯したとされる少年は、成人と異なり、刑事裁判を受けるのではなく、家庭裁判所に送られて少年審判を受けます。この少年審判を受ける少年に、国費で弁護士を付ける制度を国選付添人制度といいます。そして、この制度によって少年に付された弁護士の事を国選付添人といいます。

 ⑵ 対象事件
 従前、国選付添人は検察官関与事件の場合しか選任されませんでしたが、2007年の少年法改正により、一定の重大事件で観護措置の取られた少年について裁判所の裁量により選任する国選付添人制度が創設され、2014年の少年法改正により、被疑者国選弁護対象事件と同じ「死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁固に当たる」事件に拡大されました。しかし、あくまで裁判所の裁量(「職権」)による選任であり、少年に選任請求権はないことから、対象事件であっても国選付添人が選任されない場合があります。一般的には、少年院送致等の重大な処分の見込み、非行事実に関する争いの存否、保護者の有無(保護者がいたとしても虐待等で保護者による十分な援助を受けられないか)、保護者に困難な援助の必要性などを総合的に考慮して、弁護士付添人の関与が必要か否かを判断するとされています(2014年4月10日参議院法務委員会での岡健太郎最高裁事務総局家庭局長の答弁参照)。

 ⑶ 注意点
 「国選付添人」は費用がかかりませんが、国が弁護士リストからランダムに弁護士を選ぶため、必ずしも少年事件に詳しい弁護士を担当してもらえるとは限りません。また、「国選付添人」を付けるには、一定の要件があり、選任は裁判所の裁量(職権)によることになります。

4 私選弁護人・私選付添人

 これに対して、私選弁護人は、少年や少年の保護者が自由に選ぶことができるため、少年と相性のいい弁護士や少年事件や刑事事件の知識・経験が豊富な弁護士を御自身の判断で選ぶことができます。さらに、警察の捜査の初期段階で、私選弁護人を選任することにより、弁護人が警察官に対して少年を逮捕しないよう求めたり、検察官や裁判官に対して勾留しないよう要請したりすることができます。そのため、「少年との接見・面会をしっかり行ってもらいたい」、「家族との連絡をしっかり行ってもらいたい」,「積極的に少年の弁護をしてもらいたい」と考えるのであれば,私選弁護人の方がいいでしょう。ただ、私選弁護人は、国選弁護人とは異なり、弁護士費用は御自身で負担することとなります(国選弁護人は、基本的には国が負担します)。

 また、被害弁償や示談交渉を行う際には、私選弁護人・私選付添人の方が迅速に活動する傾向がありますので、国選弁護人・国選付添人の弁護活動に不満がある場合には、私選で弁護士をつけることをお勧めします。

5 おわりに

 国選付添人も私選付添人も、その職務や権限に違いはありません。しかし、国選付添人は国が選任する付添人であり、国選付添人名簿に登録された弁護士の中から自動的に割り当てられるという仕組みになっています。そのため、私選付添人のように、少年や、そのご家族が自ら弁護士を選択することはできません。
 また、「国選付添人」は費用がかかりませんが、国が弁護士リストからランダムに選ぶ弁護士であるため、必ずしも少年事件に詳しい弁護士に担当してもらえるとは限りません。加えて、国選付添人対象事件は限定的であり、選任は裁判所の裁量(職権)にゆだねられています。

 他方で、「私選付添人」は弁護士費用がかかるものの、どのような少年事件においても条件無く付けることができて、少年事件に詳しい弁護士を、少年本人との相性も考えつつ、自分で選ぶこともできます。早期の段階から、弁護士を「私選付添人」として選任することで、家庭裁判所の少年審判までの流れにおいて、少年弁護事件や、少年の更正のための環境づくりのために弁護士が一貫して深く関与することができます。

 少年審判においては、非行事実のみならず、少年の性格や環境等に照らして、将来再び非行に陥る危険性があるかどうか(これを「要保護性」といいます。)も審理対象となります。要保護性が高いと判断されれば、身体拘束を伴う保護処分(例:少年院送致決定など)が言い渡される可能性があります。
 このような事態を回避するためにも、早期の段階から少年事件に精通する弁護士を弁護士・付添人として選任するのがよいでしょう。

 少年事件は審判期日までの時間が限られており、早期の対応が求められますので、お子様が事件を起こしお困りであれば、できるだけ早期に弊所の弁護士にご相談ください。

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