被相続人の預金・貯金の取扱い

 はじめに

 相続人(亡くなった人)の死後に預金を引き出してもよいものなのか。
 結論から言うと、法定相続分までの金額であれば、必ずしも違法ではありません。また、他の相続人に預金を勝手に引き出されてしまったけど、どのように対応すればいいか分からなくて困っている等、その後相続人間でトラブルのもとになるケースも多いです。
 今回の記事では、亡くなったご親族の預金を勝手に引き出すとどのようなリスクがあるのか、引き出しても問題ないケースはあるのか等について詳しく解説いたします

 Case1. 同居の親族が亡くなった人の預金を引き出したら違法・罪になる?
 Case2. 死後に預金を引き出して相続人間でトラブル
 Case3. 死亡した人の銀行口座は凍結されて出金不可能に
 Case4. 凍結された預金を引き出す方法
 Case5. 死後に違法に預金を引き出されたときの対処方法

Case1. 同居の親族が亡くなった人の預金を引き出したら違法罪になる?

 死亡した人の同居の親族は、その預金をおろしたとしても、窃盗罪や横領罪などの刑事上の犯罪として罪に問われることはありません。

 なぜなら、刑法には、親族相盗例という特例刑法第244条1項・第251条があり、窃盗罪や横領罪等の犯罪の成立自体否定したものではないですが、家庭内の財産上の問題については、国家が刑罰権の行使を差し控え、親族間の自律に委ねる方が望ましいという政策的な配慮に基づき、同居の親族の刑事責任は問わないこととされているからです。

 この特例によって、死亡後だけでなく、生前に親族が預金をおろす行為についても、同居の親族が罪に問われることはありません。

 被相続人(亡くなった人)の死亡によって、被相続人名義の預金は基本的に相続人全員の共有になります。そのため、相続人全員で遺産分割協議をしたうえで預金を引き出すことが望ましいでしょう。ただし、一部の相続人だけで預金を引き出しても許される場合もあります

1-1. 遺言書で預金を相続した
「すべての遺産は○○に相続させる」「●●銀行□□支店の預金は○○に相続させる」などの遺言で当該預金を相続した場合、その相続人は単独で適法に預金を引き出すことできます。

1-2. 預貯金の仮払制度を利用した
 令和元年7月に施行された改正相続法によって、遺産分割前に相続人が預貯金の一部を払戻しできる制度(預貯金の仮払制度)が制定されました(民法909条の2)。
 この制度の主な目的は、相続人が葬儀等でかかった費用を葬儀社等に支払うのに、被相続人の口座が凍結されて支払うことができないなどの不安を軽減させることにあります。この制度を利用することで、金融機関ごとに下記のうちの低いほうの金額を適法に引き出すことができます。預貯金の仮払制度は家庭裁判所の判断は不要です(他方、後述の「預貯金債権の仮分割の仮処分」の申立ての場合は、家庭裁判所の判断が必要です。)。
 仮払い制度で実際に引き出すことのできる金額は、

死亡時の預貯金残高×法定相続分×3分の1
150万円
上記のうち、いずれか低い金額となります。

1-3. 裁判所から仮分割の仮処分を認められた
 仮払い制度以外にも、裁判所に「預貯金債権の仮分割の仮処分」を申し立て、認めてもらうことによって、相続人が単独で預貯金の全部または一部を引き出すことが可能です(家事事件手続法200条3項)。

 この制度では、仮払い制度よりも多くの金額を引き出せる可能性がありますが、以下のような要件が必要となります。

 ① 遺産分割の調停・審判が家庭裁判所に申し立てられていること
 ➁ 相続人が、相続財産に属する債務の弁済や相続人の生活費の支弁その他の事情により、遺産に属する預貯金を引き出す必要があると認められること
 ③ 他の共同相続人の利益を害さないこと

1-4. 小括
 ひとりの相続人が他の相続人の了解を得ずに預金の払い戻しをしても、刑事上は、前述の親族相盗例適用により、刑事事件として立件されないケースがほとんどですが、民事上は、他の相続人から不当利得返還請求や損害賠償請求をされる可能性あります。

 また、前述の遺言書や仮払制度を利用せずに単独の相続人の判断で被相続人の預金を引き出すことは可能ですが、法定単純承認とみなされ相続放棄や限定承認ができなくなる可能性もあるので注意が必要です。

Case2. 死後に預金を引き出して相続人間でトラブルになるケース

 被相続人と同居している家族などは、生前、口座からお金を引き出してくるように被相続人から頼まれるなどして暗証番号を知っていることも多いでしょう。その場合、被相続人の死後に、葬儀費用など当座の費用に充てるためにキャッシュカードを利用して同人名義の口座から引き出しをするケースは少なくありません。

 しかし、後に他の相続人から不正に引き出したと追及を受けるおそれがありますから注意が必要です。トラブルになりやすいいくつかあげます

2-1. 相続分を超えて出金した
 相続分の範囲内での出金であれば、自身の取り分から先払いを受けたものとして精算できるため、トラブルになりにくいといえます。

 しかし、相続分を超えて出金した場合には、他の相続人から「なぜ人の取り分を勝手に引き出しているのか」「ちゃんと返金してくれるのか」などと追及され、トラブルになりやすいものです。

 そのため、葬儀費用などに充てるために引き出す必要があるとしても、必要最小限度の引き出しに止めておくことが望ましいでしょう。
 
2-2. 使途を説明できない
 「入院費として○○病院に支払った」「葬儀費用として●●社に支払った」など使途を明確に説明することができれば、他の相続人も納得しやすいでしょう。

 しかし、「被相続人のための費用に充てたが、何の費用か細かく覚えていない」など使途を明確に説明できなければ、他の相続人から「自分のために使ったのではないか」と不審に思われ、トラブルになりやすいと考えられます。

 そのため、預金を引き出した場合、使途についてあとから説明ができるように、請求書や領収書、メモを残しておくべきです。

2-3. 出金を隠していた
 勝手に預金を引き出したことに負い目を感じるなどして出金したことを他の相続人に隠していた場合、これがあとになって判明すると、他の相続人が「生前も勝手に出金していたのではないか」「他にも出金があるのではないか」など疑心暗鬼になってトラブルが拡大する可能性があります。

 そのため、他の相続人と遺産の話になったら、できる限り早いタイミングで、出金した事実やその使途を説明しておくべきです。

Case3. 死亡した人の銀行口座は凍結されて出金不可能に

 死亡した人の銀行口座は、トラブルを未然に防止するために銀行によって凍結され、出金できなくなります。

 ただし、亡くなると自動的に凍結されるわけではなく、銀行は親族から死亡の申し出を受けた段階で、口座を凍結することになります。なお、凍結される前にキャッシュカードなどを利用して出金しても必ずしも違法ではありませんが、口座凍結される前に預金を引き出す場合は、できるだけ相続人間で事前の同意を得ておくことが、トラブル防止につながります。

Case4. 凍結された預金を引き出す方法

 凍結された預金を引き出すための方法は下記のとおりです。からは前述のとおりですので、ここではを詳しく説明します。なお、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等の必要書類がそれぞれありますので、注意してください。

 【凍結された預金を引き出す方法】
 ①預貯金の仮払制度
 ➁預貯金債権の仮分割の仮処分
 ③遺言書
 ④遺産分割協議書(調停・審判)
 ⑤相続人全員の協力

4-1. 遺産分割協議書(調停・審判)
 遺産分割協議とは被相続人の遺産の分け方を相続人全員で話し合って決めることをいい、決めた内容をまとめた文書が遺産分割協議書です。預金の取得者になった相続人はこの遺産分割協議書を使って預金を引き出すことができます。また、家庭裁判所での遺産分割調停や審判を利用した場合には、調停調書や審判書を使って預金を引き出すことができます。

4-2. 相続人全員の協力
遺産分割協議が成立していなくても、金融機関所定の書式に相続人全員で署名捺印することで、預金を引き出すことができます。

Case5. 死後に違法に預金を引き出されたときの対処方法

 一部の相続人が、被相続人の死後に違法に同人名義の預金を引き出していた場合、どのように対処したら良いのでしょうか。

5-1. 遺産分割協議でまとめて解決する方法
 死後の引き出し分については、相続法の改正(令和元年71日施行)によって、預金を引き出した相続人以外の相続人全員が合意をすれば、遺産分割協議・調停・審判のなかでまとめて解決することが可能になりました(民法906条の21項)。

5-2. 訴訟を起こす方法
 預金を引き出した相続人以外の相続人全員の合意が得られない場合や改正相続法が適用される前の相続については、不当利得返還請求訴訟や不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を起こして解決を図ることになります。

 まとめ

 被相続人の死後に預金を引き出しても刑事上の罪に問われる可能性は低いものの、民事上では、相続人間でトラブルが生じ、不当利得返還請求訴訟や損害賠償請求訴訟を起こされる可能性があります。

 相続トラブルを起こさずに預金を払い戻すには、自己判断で行動する前に弁護士に相談しておくと安心です。また、死後の預金の引き出しについて相続人らの間で揉めてしまった場合には、当事務所の弁護士に相談下さい

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