1.はじめに
交通事故の示談(じだん)とは、加害者が被害者に支払う慰謝料などの賠償金額の他、解決に向けての条件を両当事者で話し合って決めること、示談書とは、当事者間の合意(示談)の内容を記載した書面のことをいいます。
今回は、交通事故の被害者にとって重要な書類である「示談書」について、取り決めるべき内容や効果、書き方、留意点について解説します。
2.示談とは
「示談」とは、当事者間による合意によって解決すること、将来的に紛争が生じるおそれがある事項について、事前に予防する契約のことをいいます。
「示談」という用語は、刑事事件や交通事故などで利用されることが多く、民法上の「和解契約」と似ていますが、「和解契約」が相互に譲り合うことを前提とするものであるのに対して、犯罪や事故・不貞行為などの加害者だけが一方的に提示された条件に応じる場合も含む概念として使用されます。
一般的には、一定の金銭(迷惑料・慰謝料・解決金・治療費・修理代等、様々な名目)を支払い、その代わりに、「裁判を起こさない」、「告訴(被害届)を提出しない、もしくは取り下げる」、「家族や職場その他の第三者に口外しない」等の条件に応じるという内容を示談書という書面を作成して当事者双方が取り交わします。
示談交渉は、当事者が自分自身で行うことも可能ですが、相手方と直接のやり取りをしたくない、連絡先を知られたくない、感情的になって話がまとまらない等の事情がある場合には、弁護士に依頼し、代理人として、示談交渉してもらうことになります。
3.示談書の作成
交通事故の損害賠償金は、「示談書」の内容に基づいて支払われます。
示談書は、交通事故により発生した問題が解決したことを確認するために作成する重要な書面です。事故当事者が、示談交渉の結果、合意した損害賠償金額や支払い方法・支払期限などの示談内容が記載されることになります。
そのため、交通事故の被害者は、示談の際に、自己が賠償内容や賠償方法等を主張して、示談書に盛り込むことで、適正な賠償を受け、その後のトラブルを防いだりすることができます。
また、示談書は、加害者が任意保険に加入している場合は、保険会社の担当者が、加害者に代わって、被害者と話し合い作成されることが多いです。加害者が任意保険に加入していれば、加害者側の任意保険会社、もし加入していなければ、加害者または被害者が作成します。その際は、示談書に不備や不足がないように注意しましょう。示談書は一度取り交わすと、基本的に後からやり直しはできません。
作成のタイミングは、当事者が示談内容に合意した後になります。加害者側の保険会社が示談書を作成する場合は、通常、示談成立から1~2週間ほどで届きます。示談成立から2週間以上経っても示談書が届かない場合は、加害者側保険会社の担当者に問い合わせし、いつまでに送ってもらえるのか、具体的な日付や期限を確認しておくようにしましょう。
4.示談書の効果
示談をした後に、もし、相手がその義務を果たしてくれなかったらどうなのでしょうか。
示談は法律上、民法697条の「和解契約」の一種に位置づけられており、相手方が損害賠償金の取り決めを守らないため、裁判になった場合、示談書は当事者間の合意内容を示す証拠書類として提出することができます。しかし、示談書のみでは財産などを差し押さえる強制執行の申立てはできません。
そのため、示談書をより強力なものにしたい場合は、「強制執行認諾文言付き公正証書」にすることをおすすめします。相手方がお金を払わない場合には、本公正証書をもって、裁判手続を行わなくても相手方の財産を差し押さえることができます(民事執行法第22条5号)。
公正証書は公証役場で作成される公文書です。費用はかかりますが、原本は公証役場で保管されるため改ざんのリスクがなく、これが強制執行の債務名義になります。
すなわち、相手が「払いたくない」と言っても、法的な根拠をもって「払え」と主張することができ、相手が任意に支払ってくれない場合、裁判を起こして、判決をもらうことが可能となるのです。また、判決が確定したにもかかわらず、それでも相手が支払ってくれない場合、裁判所に申し立てを行い、強制執行が可能となります。
5.免責証書について
保険会社から、示談書ではなく「免責証書」が送られてくることがあります。
免責証書は、事故の解決内容を記した書類で、示談書の一種ですが、被害者側のみ署名・捺印することで効力が生じ、加害者の署名・捺印が不要な点に違いがあります。
「免責証書」は、被害者にまったく過失が付かない事故で用いられることが多くあります。示談書の取り交わしと比べると、当事者双方の署名・捺印が不要なことから、迅速な書類の取り交わしが可能です。
免責証書の効力は、示談書と同様です。そのため、免責証書に署名・捺印することは、免責証書に記載されている内容に合意したことを示します。つまり、免責証書に署名・捺印すると、基本的には記載された金額以上の損害賠償請求は認められなくなることから、慎重な判断が必要になります。
6.交通事故の示談書の書き方
交通事故の示談書は、加害者側保険会社が用意することが多いですが、記載内容について知っておくことで記載漏れや不備を防ぐことができます。 記載すべき内容は、次の通りです。
① 事故の当事者として、加害者・被害者の氏名・住所・車両番号
② 事故を起こした運転者と車両の所有者が異なる場合は、車両の所有者名
当事者の氏名を記載することで、一目で誰と誰の事故の和解契約なのか分かるようにします。また、被害者自身で示談書を作成する場合に、加害者の名前が分からない場合は、交通事故証明書を交付してもらいましょう。交通事故証明書には加害者の氏名や住所が記載されています。
示談書の効力を生じさせるため、和解契約の相手方を確定する必要があります。当事者の確定は、基本的に氏名・住所・車両番号で行うため、示談書に記載すべき必要項目といえます。
次に、どの事故(対象事故)について示談したのかを特定するために、事故の発生状況等を記載します。
③ 事故の発生日時
④ 事故の発生場所
⑤ 事故の発生状況
事故を警察に届け出ておけば、交通事故証明書は「自動車安全運転センター」で発行してもらうことができるので、事故の詳細は交通事故証明書を参考に、簡潔に記載します。
さらに、示談の諸条件として、以下のような情報を記載します。
⑥ 既払金:治療費など、既に支払いを受けた金額
⑦ 示談金額:最終的に支払いを受ける金額
示談金額は、損害額から過失相殺分と既払い金を控除した金額になります。過失相殺とは、被害者についた過失割合に応じて、最終的に支払われる金額が減ることを言います。損害額は、示談の過程で別紙にまとめられることが多いです。
⑧ 支払期日:目安としては、示談成立から30日程度
⑨ 支払方法:口座振替か現金か、一括払いか分割払いか等
示談金の支払い方法は、相手が保険会社の場合、基本的に一括払いとなりますが、示談の相手が加害者本人の場合は、分割払いになる可能性が高くなります。分割払いの場合は、分割回数や1回の支払い額、支払日などを明記することをおすすめします。その他、ケースによって、違約条項、留保条項、清算条項、過失割合、連帯保証条項を記載する場合もあります。
示談書の内容に合意した場合には、署名・捺印をして、内容に合意した証明とします。このとき、当事者双方が示談書の末尾に署名・捺印をする必要があり、あわせて示談書を作成した日付も記載しましょう。
7.合意後の変更の可否
示談書は、当事者双方が署名・捺印し、締結してしまうと基本的に後からやり直しはできません。そのため、締結後に「請求できた費用があった」、「示談金の金額が間違っている」と気付いたとしても内容を覆すことは難しいでしょう。 後から後悔しないためにも、示談書が送られてきた場合や示談書を作成した場合は、署名・捺印する前に交通事故に詳しい弁護士に確認してもらいましょう。
示談書の内容の不備や請求漏れがないかを確認し、間違いがあれば、弁護士が代理人となって相手方と交渉することができます。また、相手方保険会社の提示する示談金は、任意保険基準で算出されていることが多いため、弁護士に依頼することで、弁護士基準で算出し直すことができ、示談金が増額する可能性も高まります。
8.おわりに
交通事故の示談書は、当事者双方の合意内容をまとめた重要な書類です。 多くの場合、加害者側保険会社から示談書が送付されますが、その内容が適切であるのかは交通事故に詳しくなければわからないことでしょう。そのため、交通事故の示談書については、交通事故に精通した弁護士が当事務所には在籍しておりますので、加害者側保険会社の提示する示談書を精査し、示談金の金額や項目に不備があれば代理人として交渉していきます。
また、ご自身で示談書を作成したい場合も当事務所の弁護士がお手伝いすることで、不備や不足のない示談書を作成することができますので、示談書についてお困りの際は、まずは一度ご相談ください。