逸失利益とは?

1.はじめに

  交通事故により怪我を負った場合、怪我が完治せずに後遺障害が残ってしまい、以前のようには働けなくなってしまうことがあります。また、事故で残念ながら亡くなってしまった場合は、被害者の方が働いて将来得るはずだった収入が無くなってしまいます。
 このように、将来得られるはずであった収入を補償するために、交通事故の損害賠償項目には、逸失利益(いっしつりえき)というものがあります。

2.交通事故の逸失利益とは

 逸失利益とは、仮に事故が起きなかった場合、将来得られたであろう収入の減少分のことをいいます。言い換えると、交通事故により後遺障害が残ったり、被害者の方が亡くなったりしなければ、将来得られるはずであった収入・利益に対する補償です。
 交通事故の場合に問題となることが多いですが、暴力事案、労働災害、医療事故などでも生じる可能性があります。後遺障害の程度や、被害者の職業・収入・年齢・性別などによって逸失利益の賠償額が異なるため、計算方法をしっかりと理解することが大切です。
 逸失利益は、後遺障害逸失利益とそれぞれについて説明していきます。

3.後遺障害逸失利益

 後遺障害逸失利益とは、事故により後遺障害が残った場合の逸失利益です。交通事故で負った怪我が完治せずに後遺障害として残ってしまうと、事故以前のようには働けなかったり、退職を余儀なくされたりすることで、将来得られるはずだった収入が得られなくなる場合があります。この将来の収入の減少分に対する補償のことを指します。
 後遺障害逸失利益は、事故後に残った後遺症について後遺障害等級認定申請を行い、114級の等級に認定された場合に、請求することができます(「後遺障害慰謝料とは」のコラムの表を参照)。
 後遺障害の内容、被害者の方の職業、年齢、性別、事故以前の収入などによって金額は異なります。後遺障害逸失利益は被害者本人が請求します。
 なお、学生や主婦(主夫)の方でも、逸失利益の補償の対象になりますので、逸失利益を請求することができます。

4.死亡逸失利益

 死亡逸失利益とは、事故により死亡した場合の逸失利益です。被害者が死亡してしまうと、将来得られるはずの収入が全く得られなくなってしまいます。将来の収入がなくなってしまったことに対する補償のことを指します。ただし、事故後にかかるはずであった生活費が不要になることを考慮するため、将来得られるはずの収入全てが支払われるわけではないことに注意してください。 
 死亡逸失利益は亡くなった被害者本人に請求権が発生しますが、被害者の方は既に亡くなってしまっているため、被害者本人から請求権を相続した遺族が加害者に請求することとなります。

5.逸失利益と休業損害の違い

 休業損害とは、交通事故によって怪我を負ってしまい、仕事を休まなければならなくなってしまったために、その期間の収入減少に対する補償のことをいいます。
 逸失利益とは、事故によって死亡した時点あるいは症状固定となった時点以降に将来的に収入が減少することに対する補償のことをいいます。
 休業損害と逸失利益は、どちらも収入の減少に対する補償、という点で同じ性質を持ちますが、「休業損害=現在の補償」であるのに対し、「逸失利益=将来の補償」という違いがあります。
 この2つは症状固定をきっかけに切り替わります。
 症状固定とは、これ以上治療を続けても症状の改善が見込まれないと医師が診断したことを指します。
 症状固定までの治療期間中、仕事を休んだことによる収入の減少分は休業損害として請求し、症状固定後、後遺障害が残ったことによる収入の減少分は逸失利益として請求します。

6.逸失利益と慰謝料の違い

 慰謝料とは、交通事故により負った精神的苦痛に対する補償です。
 逸失利益とは、事故がなければ将来得られていたであろう収入の補償です。
 逸失利益とは「将来受け取れるはずであったお金」であるのに対し、慰謝料とは「精神的な苦痛を負ったこと」に対する賠償金です。そのため、逸失利益と慰謝料は、精神的な補償と財産的な補償である点で異なり、互いに排斥するものではないため、後遺障害が認められた場合や死亡事故の場合は、慰謝料と逸失利益を同時に請求することができます。
 死亡あるいは後遺障害が残った場合は、収入の減少が予想されるだけでなく、その後も精神的な苦痛が続きます。そのため、逸失利益とは別に、死亡あるいは後遺障害の慰謝料も請求することとなります(後遺障害慰謝料については「後遺障害慰謝料とは」のコラムを参照)。

7.逸失利益の計算式

 では、実際の逸失利益の計算はどのように行うのでしょうか。
 障害事故の場合の逸失利益は、

【後遺障害逸失利益】=①【1年あたりの基礎収入】×②【労働能力喪失率】×③【労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数】

の計算式により、算出できます。

死亡事故の場合の逸失利益は、

【死亡逸失利益】=①【1年あたりの基礎収入】×④【1-生活控除率】×③【労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数】

の計算式により、算出できます。

①【1年あたりの基礎収入】とは、事故前の年収がこれに当たります。
②【労働能力喪失率】とは、後遺障害によって労働する能力がどの程度下がったかを数値化したものです。後遺障害等級毎に決まっています。等級が重くなるほど労働能力喪失率は高くなり、逸失利益も高額になります。
③【労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数】とは、将来発生する利益を控除するために用いる数値を指します。将来にわたる損害金を一括で受け取ることから、毎年収入を得る場合と比べて利息を多く取りすぎることから、将来の利息分を差し引くものになります。
ライプニッツ係数は、国土交通省により、公表されています。
https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/resourse/data/syuro.pdf
④【1-生活控除率】は、死亡によって逸失利益という損害が発生する一方で、被害者が生きていた場合に支出していたはずの生活費がかからなくなることから、生活費控除相当額が控除されることを示しています。

8.おわりに

 認定される後遺障害等級によって、逸失利益の金額は大きく変動します。適切な後遺障害認定を受けることは、適切な補償を受けることに直結しますので、後遺障害等級認定のために、資料を用意していくことが必要です。
 また、逸失利益のみを請求する場合は少なく、逸失利益とともに、休業損害や後遺障害慰謝料も損害賠償請求していくことが多いかと思います。
 弁護士に依頼すれば、後遺障害等級認定のための資料収集段階からアドバイスし、逸失利益を含めた賠償金全般について検討して、代理人として交渉・請求をすることが可能です。弊所への相談もご検討ください。

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