兄弟姉妹が相続放棄する方法

亡くなった方(被相続人)に子や親がいない場合あるいは、子や親が相続放棄した場合などでは、被相続人の兄弟姉妹が遺産を相続することになります。もし、被相続人の兄弟姉妹が相続人になっても、どのような遺産があるのかわからないことが多いでしょう。被相続人が借金などの負債を抱えていた場合、相続放棄をしなければ負債も相続することになります。

 被相続人の兄弟姉妹の相続放棄は、被相続人の子供や父母が放棄する場合とは異なる点がいくつかあることに加え、相続開始を知った日から3カ月以内に家庭裁判所に手続きをしなければならないため(民法915条第1項)、自分が被相続人の兄弟姉妹である場合には、自己が法定相続人であるかどうかを確認し、相続放棄の判断が遅れないように注意する必要があります。

今回の記事では、兄弟姉妹が相続放棄をする方法、手続きの流れや注意点について解説いたします。

兄弟姉妹が相続人となるケース

 まず、兄弟姉妹が相続人になるのはどのようなケースなのか、ご説明いたします。
被相続人が亡くなった時に配偶者が存在していれば、必ず相続人となります(民法890条)。配偶者以外の相続人には、三つの順位が決められています(民法900条各号)。その優先順位を「相続順位」といいます。優先順位が高い順に「第1順位」「第2順位」「第3順位」と定められています。

1順位 「子供や孫等」の直系卑属(ただし、孫、ひ孫などが相続する場合は、被相続人よりも先に子が死亡しているとき。)
2順位 「父母や祖父母等」の直系尊属(ただし、祖父母が相続する場合は、被相続人よりも先に父母が死亡しているとき。)
3順位 「兄弟姉妹や甥姪(おい・めい)」(ただし、甥・姪が相続する場合は、被相続人よりも先に兄弟姉妹が死亡しているとき。)

 兄弟姉妹は、「第3順位の相続人」です。
つまり、兄弟姉妹が相続人となるのは、第1順位の相続人である子供や孫等がおらず(全員亡くなった、相続放棄した場合)、第2順位である父母や祖父母等もいない(全員亡くなった、相続放棄した)場合です。被相続人に子供、父母等の先順位の相続人がいる場合は、先順位の相続人全員が相続放棄しない限り、被相続人の兄弟姉妹は相続人になりません。

兄弟姉妹の相続放棄の期限

 相続放棄の期限は、「被相続人が亡くなってから」3ヶ月以内ではありません。「自分が相続人となったことがわかった日から」3ヶ月以内です(第915条第1項)。これは、兄弟相続が相続放棄する場合も同じです。
したがって、被相続人が亡くなってから何年も経過した後であっても、兄弟姉妹は、被相続人が亡くなったことを知ってから3ヶ月以内であれば、相続放棄ができるということになります。

 また、被相続人の兄弟姉妹は、被相続人に子供や父母のような先順位の相続人がいない場合のほか、先順位の相続人がいる場合にも、その全員が相続放棄をすると、相続人となり、兄弟姉妹の相続放棄の期限は、「被相続人が亡くなったことを知った日」から進行することになります。
 具体的には、被相続人の子供から連絡があって、「子供全員が相続放棄しました」と聞いたとき、または、債権者から送られてきた書面に、「先順位者全員が相続放棄をして、あなたが相続人となりました」というような内容が記載されており、それによって先順位の相続人の相続放棄を知ったら場合には、その書面が届いたときから「3ヶ月」の期限が進行していくことになります。そのため、家庭裁判所に相続放棄の申請をするときには、債権者から届いた書面を添付する必要がありますので、その書面は捨てずに保管しておいてください。また、それがいつ届いたのかも、メモしておくと良いでしょう。

兄弟姉妹の相続放棄の必要書類

 兄弟姉妹の相続放棄をする場合、まず、兄弟姉妹が法定相続人に該当する必要があります。そのため、上述のとおり、第3順位の相続人である兄弟姉妹が相続人となるためには、第1順位や第2順位の相続人が存在しないということを戸籍で証明する必要が出てくるため、被相続人の子供が相続放棄をする場合と比べると、大量の戸籍が必要になります。

具体的には、下記のような書類が必要となります。
①被相続人の住民票除票(または戸籍附票)
②申述人(相続放棄する人)の戸籍謄本
③被相続人の出生から死亡までの記載がある戸籍謄本
④被相続人の子(およびその代襲者)で死亡している者がいる場合、その子(およびその代襲者)の出生から死亡までの記載がある戸籍謄本
⑤被相続人の直系尊属の死亡記載がある戸籍謄本

※先順位の相続人が先に相続放棄をしている場合には、その先順位の相続人が裁判所に提出済みのものは原則提出不要ですが、念のため裁判所に確認した方が良いでしょう。
3ヶ月の期間を超えて相続放棄の申請をする場合などに、事情の説明のための上申書を作成する必要があります。
※親権者や成年後見人が、未成年者や成年被後見人の法定代理人として相続放棄の申立人になる場合、親権者の戸籍謄本、後見人の登記事項証明書(又は選任審判書謄本)など、上記①~⑤の書類とは別に親権者や成年後見人であることの証明が必要となります。

兄弟姉妹が相続放棄をするとその子供が相続人になる?

 被相続人が負の財産を残して死亡し、兄弟姉妹が相続放棄をした場合、その負の財産は誰に引き継がれるのでしょうか。相続放棄をした相続人に子供がいれば「子供が代襲相続するのでは?」と思われるかもしれませんが、子供は代襲相続人とはならず、借金を引き継ぎません(民法第887条第2項、第889条第2項参照)。我が国の民法上、相続放棄は、代襲相続の原因とはならないためです。
兄弟姉妹全員が相続放棄をすると、もう次の順位の相続人は存在しないので、相続人は不存在ということになります。

まとめ

 負の財産がある場合、兄弟の一人が相続放棄をすると、他の兄弟の相続されることになりますから、自分だけ相続放棄をして責任を免れたと言われないためには、できれば相続放棄をすることを他の相続人に伝えてあげるほうが親切です。

 そして、複数の兄弟姉妹が相続放棄をするのであれば、各自バラバラにすすめていくのではなく、全員まとめて1ヶ所の法律事務所に依頼した方が、手続きはスムーズに進みます。また、兄弟姉妹の相続放棄は、被相続人の子供等が相続放棄をする場合にくらべると、必要な書類が多く手続きが少し複雑です。また、子供が親の相続放棄をする場合等とくらべると、兄弟姉妹とはいえ、親族の近況がよくわからないために、相続放棄をすべきかどうかについても、悩まれることもありうるでしょう。

当事務所では、様々な相続放棄の案件を取り扱っておりますので、兄弟姉妹の相続放棄について何か不安な点等がございましたら、増井総合法律事務所にお気軽にご相談下さい。

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