相続放棄できないケースとは

 相続放棄とは、相続人が相続開始による包括承継の効果を全面的に拒否する意思表示をすることです。
放棄する相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、家庭裁判所へ必要な書類を揃えて提出し、申立ての手続きを進めていきます(民法第
915条第1項)。しかし、相続放棄が認められないケースもあります。

 では、どんなケースがあるのか見ていきましょう。

1 手続きに不備がある場合

 相続放棄の手続きは、家庭裁判所に必要書類を全て揃えて提出することで開始されます。書類に不備があった場合は受理されないため、しっかりと準備をすることが大切です。必要書類は、申述人(相続放棄する方)によって異なりますが、共通して必要な書類は以下の通りです。

・相続放棄申述書
・被相続人(亡くなった方)の住民票の除票または戸籍の附票
・申述人(相続人)の戸籍謄本
・被相続人(亡くなった方)の死亡の記載のある戸籍謄本
・収入印紙800円および郵券 (郵券の必要枚数や金額は各家庭裁判所によって異なるため注意。)

 裁判所によっては書類を提出した後、「照会書」というものを送ってくることがあります。これは裁判所が相続放棄をしたい申述人に対して質問したいことが掲載されており、回答して提出する必要があります。これを提出しないと相続放棄が認められない可能性がありますので、ご注意ください。

2 単純承認をしている場合

 相続人が被相続人(亡くなった方)の一切の権利義務を、プラス・マイナスを問わずに包括的に承継する制度を「単純承認(民法第920条)」と言います。
単純承認をすると、被相続人に借金がある場合、相続人は自己固有の財産で弁済しなければなりません。すでに財産の一部を使っている、または売却しているなどの場合は、単純承認とみなされてしまうため、相続放棄はできません(民法第921条 法定単純承認)。
ただし、被相続人(亡くなった方)の葬儀費用を支払うなど、一部の行為については単純承認とみなされません(民法第921条第1号但書)。

 また、約款にもよりますが、生命保険金は受け取れることもあります。加えて、相続の開始を知った日から3か月の熟慮期間の間に相続放棄をしなかった場合も、単純承認をしたとみなされるため注意が必要です(民法第921条第2号)。

①法定単純承認が成立した場合の具体例(民法第921条)
 以下の行為は、単純承認とみなされて相続放棄をすることができなくなる可能性があります。なぜなら、以下の行為は、相続人として相続財産を相続することが前提となった行為だからです。

・代物弁済をした(大判昭和12.1.30民集161
・被相続人(亡くなった方)の預貯金の解約や払い戻しを行った
・経済的価値のある遺品を持ち帰った
・不動産の名義変更をした
・賃貸物件を解約した
・自動車を処分した
・携帯電話を解約した
・被相続人(亡くなった方)の資産から借金や税金を支払った
・不動産のリフォームを行った
・遺産分割協議に参加した
・遺産を浪費した
・債権の取立てを行った(最判昭37.6.21

※法定単純承認に該当するかどうかを適切に判断するためには専門知識が必要な場合があります。できるだけ、自己判断はせずに、相続放棄の案件を取り扱ったことのある弁護士に助言をもらうようにすれば安心です。

3 熟慮期間を過ぎている

 相続放棄は、「相続の開始を知った日」から3か月以内(民法、第915条第1項)に、被相続人の最後の住所地の管轄である家庭裁判所に申述の申立てをする必要があります。この3か月間のことを「熟慮期間」と言います。「熟慮期間」は、相続をするのか、しないのかについて検討する期間です。この熟慮期間を過ぎてしまうと、原則として、相続放棄はできなくなってしまいます。
 ただし、熟慮期間は延長(伸長)することができます。家庭裁判所に「相続の承認または放棄の期間の伸長」と呼ばれる申立てを行うことにより、熟慮期間の延長が認められることもあります(民法第915条第1項但書)。

 このように、相続放棄は、手続きに不備がある場合、法定単純承認に該当する場合、熟慮期間を過ぎた場合に認められないことがあります。このような事態を回避するためには、①遺産を適切に管理すること、②熟慮期間を過ぎないように早めに手続の準備をすること、③隠れた債務に注意することが重要となります。

4 まとめ

  相続放棄が認められるかどうかを適切に判断するためには、専門的な知識が必要となります。
当事務所は様々な相続放棄の案件を取り扱っておりますので、お困りの際には、お気軽にご相談ください。

 

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