交通事故の被害にあわれた方がケガの治療を続けていると、一定のタイミングで加害者の保険会社から「症状固定」という話をされることが多いです。この言葉はあまり日常で耳にすることはないですが、交通事故では保険会社と賠償額を決める上で、とても大切なキーワードです。
今回の記事では、この「症状固定」について詳しく解説していきます。
症状固定とは
症状固定とは、傷病に対して行われる医学上一般に承認された治療方法をもってしても、その効果が期待し得ない状態で、自然的経過によって到達すると認められる最終の状態に達したときをいいます(名古屋高判令和3・10・29自保ジャーナル2112号1頁)。
病院で治療を受けると、傷が治り、ケガの前の状態に戻る、「完治の状態」が軽症では多いと思います。しかし、交通事故のケガであれば、ある程度大きなものも予想されます。その場合、これ以上治療を続けても状態が変わらないケースが多くみられます。この状態に至ると、症状固定とされます。
症状固定は、通常、担当する医師による医学的な診断をもとに判断されますが、損害賠償交渉の都合から、治療途中でも保険会社が一方的に症状固定を通知してくる場合があります。そのため「症状固定のタイミング」は、被害者と保険会社の間で争いの要因によくなります。
症状固定のタイミングが重要
なぜ症状固定のタイミングが重要なのかというと、症状固定のタイミングは損害賠償額に影響するためです。法律的には、症状固定前を「傷害部分」と定め、症状固定後を「後遺障害部分」と定めており、症状固定前の「傷害部分」と症状固定後の「後遺障害部分」では請求できる項目が異なってくるのです。
症状固定の前後では、保険会社へ請求できる内容が違います。
「傷害部分」では、治療費・交通費・付添看護費・入院雑費・休業損害・入通院慰謝料等を請求することができます。「後遺障害部分」では後遺障害逸失利益・後遺障害慰謝料などが請求できます。
入通院慰謝料は通院期間に比例します。また、通院期間は症状の重さのバロメーターでもあります。つまり、症状固定の時期が早いと、入通院慰謝料が低額になり、後遺障害等級が認定されにくいので、請求額が低額になります。その他にも重症の場合、後遺障害部分では将来介護料も請求が認められています。
症状固定した後は、基本的に治療費や休業損害等の傷害部分の項目を請求することができなくなるので注意が必要です。しかし、症状固定の時期を無理に伸ばすことは危険です。必要以上に長期に通院していると判断されるとその分の費用は認められず、自費になるのでそれもまた要注意です。
症状固定までの時期の目安
治療を行っても効果が得られず、これ以上状態が変わらないとされる症状固定かどうかの判断を下す大まかな目安は事故から6ヶ月程度です。 しかし、事故から6ヵ月というのはあくまでも目安であり、個々の怪我の内容や度合いによって症状固定の時期は異なります。
そのため、事故発生日から1年以上経過して症状固定と判断されるケースもあります。
症状固定を決めるのは基本的に医師
交通事故で怪我を負った場合、相手方の保険会社から「そろそろ症状固定の時期にしませんか。」と打診されるケースが多くあります。なぜ保険会社は症状固定を打診してくるのでしょうか。
それは、保険会社はあくまでも売り上げを上げていく必要のある営利企業であるからです。そのため、症状固定のタイミングをできるだけ早めて必要最低限の補償でとどめておきたいという思惑があるためです。
症状固定後は保険会社から支払われる治療費は打ち切りとなります。保険会社によっては一方的に治療費の支払いを打ち切ってしまうというケースもあるようです。しかし、保険会社の一方的な治療費の打ち切りは、必ずしも症状固定を意味するわけではないため注意が必要です。一方的な治療費の打ち切りは、あくまでも保険会社の判断です。
しかし、完治するのか、状態が固まった症状固定になるのか、それを見定めるのはあくまで治療に対応している医師です。そのため、まだ治療を継続する必要があると医師が認めており、なおかつ被害者自身も治療の継続を望んでいる場合は治療をそのまま続けることができます。
症状固定の時期は主治医が判断することなので、保険会社の言葉に安易に応えないよう注意しましょう。
まとめ
医師が症状固定の時期ではないと判断したのにも関わらず、保険会社がこれを認めず治療費の支払いをストップするなどの対応をされた場合、まずは保険会社に対してその理由の説明を求めます。
保険会社からの症状固定扱いであることの説明を受けても納得できない場合は弁護士に相談するのがおすすめいたします。弁護士に相談せずに自ら保険会社と交渉していくことも可能ですが、保険会社の担当者は、いわば「交通事故対応のプロ」です。
また、前述のとおり、症状固定のタイミングによって損害賠償額が変わりうるので、症状固定の時期については、判断を誤ってからでは取り返しがつかないこともあります。そこで、少なくとも保険会社から治療費打ち切りの連絡が来る前までに、弁護士へ相談することをおすすめいたします。お困りの際には、当事務所の弁護士にご相談ください。