自賠責保険基準・任意基準・弁護士基準 ~それぞれの算定基準、相違点~

あなたがもし交通事故に遭ってしまったら、「損害賠償」を請求することができます。その項目は様々です。このコラムでは「交通事故の損害賠償」に着目し、損害賠償とは何か、誰に請求するのか、また損害賠償の算定基準について解説していきます。

損害賠償とは?

 まず、「交通事故の損害賠償」とは、事故によって被害者が受けた損害や負担を金銭に換算して加害者へ請求できる賠償金全体をさします。 交通事故に遭ってしまった際には、病院を受診したり、会社を休んで通院したりと、損害が生じてくるものです。

 そういった損害を、それぞれの程度に応じ項目ごとに金銭に換算し、賠償金として受け取ることが出来ます。「損害賠償って結局は慰謝料のことでしょ?」と思っている方も少なくないと思いますが、慰謝料は損害賠償の項目の中の1つです。損害賠償という大きなグループの中に慰謝料が入っているといった構図です。

損害賠償は誰に請求するのか?

 「交通事故の損害賠償」は、原則として加害者または加害者側の任意保険会社に請求します。交通事故の加害者は民法第709条に定められているとおり「他人の権利を侵害した」不法行為者として、損害賠償の義務を負います。

算定基準によって損害賠償額は変わる?

 算定基準とは、交通事故における損害賠償の金額を決めるための、各損害の項目を金銭評価するための基準です。
 この算定基準は損害賠償の項目ごとに異なります。特に、交通事故の算定基準は、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準と、同じ損害項目であるにも関わらず、どの算定基準を使うかによって算定金額が異なります。
 各基準を用いて賠償額の計算をした場合に、裁判基準(弁護士基準)が最も高額となります。しかし、この基準を使用して示談交渉する場合に相手方の保険会社が応じてくれるのは、基本的には弁護士を通した場合だけとお考えいただくのが良いでしょう。

なぜ「自賠責保険基準」、「任意保険基準」、「裁判基準(弁護士基準)」という3つの基準が存在するのか?

 「自賠責保険基準」「任意保険基準」「裁判基準(弁護士基準)」は、それぞれ異なる位置づけの基準です。

 自賠責保険基準とは、自賠責保険の支払基準が定める慰謝料算定基準のことを指します。交通事故の被害者に対する最低限の救済のための基準という位置づけです。

 任意保険基準は、交通事故の加害者の任意保険会社が、損害賠償を算定するために用いる基準です。各任意保険会社が独自で設定しており、非公開となっています。

 裁判基準(弁護士基準)は、弁護士や裁判所が用いる算定基準です。事故によって被害者に生じた全ての損害を算定したものなので、通常3つの基準の中では最も高額になります。過去の裁判例をもとにしているため法的正当性が高いです。弁護士を介した場合にのみ使用することが出来ます。

自賠責保険基準とは?

 自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)は、公道を走る全ての自動車に加入が義務付けられている保険です(自賠法5条)。交通事故で被害者に生じた損害を填補し、最低限の救済をすることを目的としています。 自賠責保険は、自動車損害賠償保障法及び同施行令という法律・政令によって規律されており、国の定める一定の支払基準(「自動車損害賠償責任保険の保険金及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)」)に従って保険金が支払われ、加入している自賠責保険会社によって保障内容が変わることはありません。

 もっとも、最高裁(最判平成18年3月30日民集60巻1242頁)は、自賠責保険金の支払基準は裁判所を拘束しない旨を判示しており、自賠責保険金の限度内であれば、訴訟を提起することにより、支払い基準を超えた金額を自賠責保険から回収することも検討しうることになります。
 なお、自賠責の支払い基準は「被害者にとって有利にも不利にも」裁判所を拘束しないと解されており、判決により支払基準を下回る認定がなされるおそれもある点には注意を要します。

任意保険基準とは?

 任意保険は、強制保険としての自賠責保険の保険金額を超える部分について担保するものです。自賠責保険ではカバーしきれない損害を上乗せして賠償するという位置づけの保険です。もっとも、事故によって生じた損害の全てを賠償してくれるわけではありません。

 任意保険基準は保険会社により独自の基準を設けているため、会社により金額の違いはありますが、多くは自賠責保険基準と裁判基準(弁護士基準)の間で算定されることが多いです。中には示談の提案の際に、限りなく自賠責保険基準に近い提案をしてくる保険会社もあります。保険会社は、慰謝料の他に、主婦(夫)休損(家事労働についての休業損害)などにも、自賠責保険基準をそのまま当てはめて提案してくることがあります。

 自賠責保険基準のように国の定めたものではなく、各保険会社の独自の基準であるため、被害者ご本人の交渉によって、多少は金額の調整がされることがあります。もっとも、事故の悪質性や被害者の肉体的精神的苦痛の程度、といった個別の事情はあまり考慮されない例が多くなっています。 示談交渉の際に、被害者ご本人に提示されるのは、上述の任意保険会社基準により算定された賠償金額です。
 弁護士を立てずに被害者ご本人が交渉しても、当初示された任意保険会社基準から大きく増額することは稀です。

裁判基準(弁護士基準)とは?

 裁判基準(弁護士基準)は、交通事故の裁判例の蓄積によって形成された基準です。交通事故裁判では、慰謝料額が基準化・定額化されているのが特徴で、裁判実務はこの裁判基準に則って動いています。 

 弁護士が交渉や裁判を行う際に請求するいわゆる「弁護士基準」の慰謝料も、裁判基準に準じたもので、交渉の解決なら裁判基準の9割程度、裁判での解決なら裁判基準の満額での解決を目指します。
 裁判基準慰謝料は、日弁連交通事故相談センターが発行している「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(いわゆる「赤い本」)という本に記載されています。

裁判基準(弁護士基準)は最も高額になりやすい?

 裁判基準(弁護士基準)は、交通事故の被害者に生じた被害の100%分にあたるため、通常は3つの基準の中で慰謝料の額が最も高くなります。
 また、裁判基準(弁護士基準)は、あくまで一般的な基準を定めたものであり、裁判官はこの基準に絶対に従わなくてはいけないわけではありません。そのため、被害者が、肉体的・精神的苦痛が通常よりも大きいことを証明できた場合には、裁判基準を超える慰謝料額が認められることもあります。

裁判基準(弁護士基準)に短所はあるか?

 通常は高額になりやすい裁判基準(弁護士基準)ですが、あらゆる場合に最も高額となるわけではありません。裁判基準(弁護士基準)を用いる場合、過失相殺が適用されるため、被害者の過失がかなり大きい場合には、自賠責保険基準を下回ることもなくはありません。このような場合は、自賠責保険から保険金を受け取ると、交渉・裁判をしても追加で受け取れる慰謝料はないということになります。

 また、裁判官が裁判基準(弁護士基準)を超える慰謝料額を認めることができる反面、加害者側の立証次第では、逆に裁判基準を下回る認定を行うことも可能であり、相手方が自賠責保険後遺障害等級などを激しく争っている場合には注意が必要です。

 ご自身の交通事故について、保険会社と過失や治療期間などの主張に大きく隔たりがある場合には、裁判基準を適用した場合の見込み額を知った上で示談交渉・裁判に臨むことが必要ですので、一度弁護士に相談してみるのが良いでしょう。お困りの際には、当事務所の弁護士にご相談ください。

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