免責手続について
そもそも、免責手続とは、破産債権について、破産者がその責任を免れるための手続きのことです。つまり、借金を負っている債務者が債務を逃れるための法定の手続の一種です。
個人である債務者が、破産手続開始の申立てをした場合には、反対の意思表示をしていない限り、当該申立てと同時に、免責許可の申立て(破産債権について、破産者がその責任を免れるための申立て)をしたものとみなされます(破産法第248条第4項本文)。また、実務上は、破産手続と免責手続は一体のものとして運用されています。
さらに、免責許可の申立てがなされると、裁判所は、破産管財人に免責不許可事由等についての調査をさせ、破産管財人から、書面で結果の報告を受けることになっています(破産法250条第1項)。
今回の記事では、裁判所が有無を判断する「免責不許可事由」について、詳しく解説いたします。
免責不許可事由とは?
免責不許可事由とは、自己破産の際、借金が帳消しになる手続きである「免責」の許可が認められない事情のことをいいます(破産法第252条第1項各号)。
自己破産は、裁判所によって合法的に借金を帳消しにできる強力な手続きです。ただし、いつでも、だれでも、どんな状況でも常に借金が帳消しになるわけではなく、免責が受けられない場合があります。
代表的な免責不許可事由としては、ギャンブルや浪費が原因となっている借金があります。本来、自己破産は、やむを得ない事情で借入が膨らんでしまった人が経済的にやり直すチャンスをもらうための手続きであるため、ギャンブルや浪費での借入は免責に制限が設けられています。
しかし、免責不許可事由に当てはまるケースであっても、裁判官が詳しく事情を聴き、「この人は反省をしており、免責して人生をやり直すことができる」と判断すれば、免責許可が下ります。具体的には後述しますが、これを裁量免責(破産法252条第2項)と言います。
そのため、裁量免責決定が出る可能性もありますので、免責不許可事由があるからといって、諦めずに破産手続を含めた債務整理を検討するようにしてください。
具体的な免責不許可事由について
免責不許可事由は、破産法第252条第1項各号に規定されており、かかる事由は、大きく、財産の減少等(1号から4号まで)、詐術による信用取引(5号)、手続妨害(6号から9号)、反復利用の禁止(10号)と整理することができます。
これらの1号から10号の事由のうち、代表的な例について、以下説明いたします。
① 財産隠し損壊:不当な破産財団の価値減少行為(破産法252条1項1号)
本来債権者に分配する資金となる財産(破産財団)の価値を減少させると、免責されないリスクが生じます。
逆に債務者が自由に処分できる財産(自由財産)を処分したり、不注意でその価値を損なったりしても、免責不許可事由には該当しません。
② 自己破産すること前提で債務を負う行為:著しく不利益な債務負担行為・処分行為(破産法252条1項2号)
たとえば、次のケースが「不当な債務負担行為」にあたります。
■ 違法な高金利(ヤミ金)でお金を借り入れた
■ クレジットカードのショッピング枠で新幹線のチケットやゲーム機を購入して購入価格よりも随分と安い価格で売却した(換金行為)
本来であれば、借入限度額に達して、そのままでは返済の見込みが立たないとわかった段階で破産を検討すべきですが、一般的な金融機関がお金を貸してくれなくなったあとでこれらの行為を行う人は実は少なくありません。これらの行為をすると「破産手続の開始を遅延させる目的」があったと認められるおそれがあります。
③ 特定の債権者だけ返済する行為:非義務偏頗(へんぱ)行為(破産法252条1項3号)
たとえば、次のケースが「特定の債権者に利益があるように支払いをする行為」にあたります。
弁護士に自己破産を依頼して、貸金業者の借金の督促から免れたA(仮名)さん。自己破産の手続完了前に、お金を貸してくれていた勤務先の社長に20万円全額を返済しました。
債権者のなかでも、勤務先の社長だけに返済をするAさんのこの行為は偏頗弁済(特定の債権者にだけ返済する行為)にあたります。また、自己破産には「債権者平等の原則」(破産法第1条)というものがあり、全ての債権者は債権額に応じて平等に扱われるので「業者から借りたお金は踏み倒してもいいので、友人から借りたお金だけは自己破産前に返済しよう」と考えて、実際に返済することも偏頗弁済となります。
偏頗弁済は債権者平等の原則に反しているため、免責不許可事由となっているのです。
④ 浪費やギャンブルによる借金:浪費、賭博その他射幸行為による財産減少行為・債務増大行為(破産法252条1項4号)
趣味や買い物など収入に見合わない支出をした、またはギャンブルや投資で多額の借金をした結果、破産をしようとしてもスムーズには認められません。
⑤ 詐術による信用取引(破産法252条1項5号)
返済ができる状態ではないにもかかわらず、収入を偽ったり、債務額を偽ったりして借金をする・クレジットカードを利用するなどの信用取引を行うような場合には、免責されません。
たとえば、次のケースが「詐術による信用取引」にあたります。
300万円の年収なのに2,000万円もの借金を作ってしまったB(仮名)さん。さらにお金を必要としたBさんは、収入、氏名、借金の有無を偽ってこれまで取引のなかったクレジットカード会社で新たにクレジットカードを作り、ショッピングに利用しました。それから、4ヵ月後、弁護士に自己破産を依頼しました。
このような行為が「詐術による信用取引」です。
⑥ 虚偽の債権者名簿の提出(破産法252条1項7号)
「債権者名簿」とは、自己破産の申立てのときに提出しなければいけない書面です。債権者名や住所、借入時期、現在の残高、借入金などの使い道、最終返済日などが記載されています。この債権者名簿に嘘の記載をすると、「債権者平等の原則」が果たされないおそれがあるため、絶対にやってはいけません。
例えば、家族や友人には迷惑をかけたくないという理由で、それらの人から借り入れをしていることを隠して債権者一覧表に載せず、それらの人にだけは返済していこうとする行為は許されません。また、債権者に嫌がらせをする目的で、意図的に特定の債権者だけ「債権者名簿」に載せなかったり、架空の債権者を載せたりすることも、免責不許可事由に該当します。
⑦ 裁判所の調査に対する説明義務違反(破産法252条1項8号、同項11号)
裁判所からの調査に対して、説明を拒否したり、虚偽の説明をしたりする場合、破産申立書や財産目録に事実と異なる記載をした場合、また、破産管財人による調査に正当な理由なく説明を拒否した場合は、免責不許可事由に該当します。
数多くある免責不許可事由のなかでも、これらのケースは免責が不許可になるリスクが非常に高いです。裁判所や破産管財人の調査には絶対にうそや隠しごとはせず、素直に協力しなければなりません。
⑧ 破産管財人等の職務を妨害(破産法252条1項9号)
裁判所から選任される破産管財人は、自己破産に関する要件を調査したり、配当を行ったり、裁量免責の可否について調査を行います。破産管財人の職務の妨害をするような場合も、免責不許可事由に該当します。
⑨ 再度の免責許可の申立て(破産法252条1項10号)
一度免責を受けたり、免責と同じような法律上の保護を受けたりしたことが7年以内にある場合、原則として2度目の免責は認めてもらえません(破産法第252条1項10号)。過去に免責許可決定を受け、その免責許可決定の確定日から7年以内に再度免責許可の申立てをした場合、免責不許可事由に該当します。
過去に免責許可決定を受けた債務者に対し、短期間に再度の免責を許可することは、債権者の同意を不要とする免責手続におけるモラルハザードにつながりうることから、免責不許可事由として規定されています。
一般的に、再度の免責許可の申立てについて、裁判所は、慎重に対応しています。2度目というだけで管財事件になるわけでもありません。勿論、反省文などで反省を示す必要があるなど、初めての破産に比べてより厳しく見られるのは仕方がありません。また、管財事件になる可能性は初回に比べると高いのも確かです。
裁量免責とは?
破産法の第252条2項には以下の定めがあり、免責不許可事由があっても「裁量免責」を受けられます。
前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。
「前項」とは第252条1項のことで、「同項各号」とは免責不許可事由のことです。
仮に免責不許可事由があったとしても、裁判所は様々な事情を考慮して免責を許可することができることになっています。これを「裁量免責」と言います。裁量免責を認められるか否かの判断基準というのは明確には定められておりませんが、裁量免責の判断にあたっては、免責不許可事由自体の悪質性の有無や程度、破産にいたった経緯、破産手続開始決定後の事情、免責許可による経済的債権の必要性、免責許可決定のもたらす影響等(債権者の意見)の事情を総合的に考慮されます。
たとえ免責不許可事由に該当することがあっても、裁判所が行う破産手続きにしっかりと協力し、無計画な借金を反省して経済的自立を誓った姿勢と態度で臨むなどすれば、裁量免責が認められる可能性が高まります。
さいごに
免責不許可事由には様々な事由があります。しかし、弁護士に予め相談し、免責不許可事由があることを明らかにし、それに合わせた対策を講じることで、問題を解決することができる可能性があります。
自己破産を検討している方は、お一人で悩まず増井総合法律事務所の弁護士までご相談ください。