はじめに
「破産手続開始決定」とは、自己破産の手続き開始を裁判所が認めて宣言することをいいます(破産法第30条第1項)。破産手続開始の申立てをすると、裁判所は、申立人が破産の条件に合致しているかを審査します。条件に合っていることが認められると、破産手続の開始を決定するのです。
なお、「破産宣告」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、「破産宣告」という言葉は、2005年の破産法の改正以前に使われていた言葉で、現在は「破産手続開始決定」という名称に変更されています。このコラムでは、破産手続開始決定に必要な条件や、破産手続開始決定によって生じてしまうデメリット、破産手続開始決定後の流れなどについて詳しく解説いたします。
破産手続開始決定と自己破産の違い
破産手続開始決定とよく似た言葉に、自己破産があります。破産手続開始決定は裁判所が破産手続の開始を決める決定であるのに対し、自己破産は債務者が申立てをしてから裁判所による破産宣告を得て借金が免責となるまでの一連の流れを指します。つまり、破産手続開始決定は自己破産の手続きの一部といえるでしょう。
破産宣告(破産手続の開始決定)に必要な3つの条件
裁判所に破産の申立てを行い、破産手続の開始決定となるには、次の3つの条件を満たす必要があります。
①支払不能であること
申立人(自己破産を申立てる人)が「支払不能」にあるとき、自己破産できると定められています(破産法第15条第1項)。
「支払不能」とは、債務者が支払能力を欠くためにその債務のうち弁済期にあるものについて一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう(破産法第2条第11項、民法424条の3第1項第1号)とされ、「一般的かつ継続的に弁済することができない状態」にあるかどうかは、財産、信用、労務を総合して判断しなければならない(前掲東京地判平成19年3月29日、東京高決昭和33年7月5日、金法182号3頁)。
破産手続開始決定を受けるためには、まず、借金の返済が継続的にできない状態にあることが条件です。どれだけ借金が高額だとしても、弁済期にある借金について、それを自力で返せるだけの収入や財産等があれば、支払不能に当たりません。
②借金が非免責債権だけでないこと
「非免責債権」とは、自己破産をしても、支払いが免除されない借金のことをいいます。自己破産で返済が免除されるのは、貸金業者や個人から借りたお金だけです。他方で、政策的な理由から一定の債権について免責の効果が及ばない旨が規定されています(破産法第253条第1項柱書但書)。そのような債権は非免責債権と呼ばれ、自己破産をしても免責されません。非免責債権の中には、、例えば、破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権、国民健康保険料・税金・養育費・裁判所に申告しなかった借金などが含まれます。
③免責不許可事由に該当しないこと
「免責不許可事由」とは、自己破産において借金を免除することを認めない要件、発覚したら自己破産が認められなくなる行為のことをいいます。例えば、浪費やギャンブル・嘘をついて借金をする・帳簿を書き換える・裁判所の調査を拒むなどです。免責不許可事由については別のコラムで詳しくご説明いたします。
破産宣告のメリットデメリット
メリット
・破産手続開始決定後に免責許可決定が出されれば、借金の返済義務がなくなり、借金が0になる
任意整理や個人再生など他の債務整理の方法にはない、自己破産特有のメリットといえます。
デメリット
・官報に住所・氏名が掲載される
破産手続の開始決定を受けると、「官報」に住所と氏名が掲載されます。これは破産法第10条で定められているため、避けることはできません。
・破産管財人によって財産を管理される
破産手続の開始決定を受けると、所有している財産を回収・換価して債権者へ分配するための手続き(破産手続)が始まります。財産の管理は、裁判所によって選ばれた「破産管財人」が行います(破産法第78条第1項)。
・引っ越しや旅行などの移動が制限される場合がある
申立人は、破産宣告(破産手続の開始決定)後は、裁判所の許可を得ることなく居住地から離れることができません(破産法第37条第1項)。そのため、引越しや宿泊を伴う旅行・出張の際には、裁判所の許可が必要となります。これは、裁判所からの出頭命令にいつでも応じる必要があるからです。
・郵便物は破産管財人に転送される
破産手続の開始決定がされると、申立人宛ての郵便物は破産管財人に転送される場合があります。申立人の財産状況のチェックや、財産隠し防止の目的として法律で規定されており、破産管財人は転送された書類を開封し内容を見る権限を持っているのです。これは管財事件のみで、同時廃止事件では転送されません。
・破産手続き中は一部の資格や職業が制限される
破産手続き中は、一部の職業や資格が制限されます。次のような職についている場合は、破産手続の開始決定になると一時的に資格を失い、資格を活かした業務ができなくなります。免責許可の決定が確定すると復権し、この制限はなくなります。免責許可の決定が確定すると復権し、この制限はなくなります。
<制限を受ける職業・資格の例>
弁護士、司法書士、税理士、公認会計士、宅地建物取引士、不動産鑑定士、公証人、生命保険外交員(募集人)、警備員 など
・ブラックリストに事故情報が5~7年程度載る
信用情報機関に、債務整理を行ったという事故情報が登録されます。ブラックリストが抹消されるのは、免責許可決定が出てから、5~7年程度です。
さいごに
裁判所から免責許可決定が出されれば、それまでの借金はゼロになり、新しい生活をスタートすることができます。返済しきれない借金を背負ってしまった場合や借金についてお悩みの方は、当事務所にご相談ください。適切な解決法をご提案いたします。