任意整理ができないケース

 任意整理とは、毎月の返済額を減らす目的で、裁判所を用いずに債権者と直接話し合う方法で行われる手続きです。
 そのため、破産手続のように、裁判所の決定により半ば強制的に債務を免責するものではなく、毎月の返済額をへらすためには「債権者の同意」が必要となります。この場合、状況次第では、債権者が話し合いに応じてくれない、借金の減免に同意してくれないということも考えられます。
 任意整理は費用も安く、デメリットも少ない債務整理ですが、「任意整理ができないケース」も少なからずあります。

 そこで、今回の記事では、任意整理できない具体的なケースについて詳しく解説いたします。

任意整理できない典型的なケース

 弁護士に任意整理を依頼しても任意整理できないケースとしては、次のような場合があります。

  • 借金額が大きく返済ができる程度の収入・財産を確保できない場合
  • 生活保護を受けている(受給申請を検討している)場合
  • 連帯保証人や担保がついている借金を返せなくなった場合
  • 借入先が任意整理に応じてくれない場合
  • 任意整理に適していない借金
  • 融資を受けてからほとんど返済していない借金
  • すでに借入先から差押え等の法的措置をとられている借金

借金額が大きく返済ができる程度の収入・財産を確保できない場合

 任意整理では債権者から同意を得て、原則として将来利息の免除をしてもらい、35年程度の一定の期間で元金の残額を分割で返済していきます。 つまり、通常の任意整理では、「元金は返済しなければならない」ということが大きなポイントです。自己破産のように、「借金を返済しなくてよくなる」というわけではありません。

 そのため、元金の分割返済を続けられるだけの継続的な収入(あるいは切り崩せる資産)がない状況では、任意整理をすることはできません。具体的には、借金の元金を36回(3年)、あるいは60回(5年)で割った金額が毎月支払えるかどうか?」が任意整理の可否に関する判断基準になります。逆にいえば、毎月の分割返済を続けられる条件さえ整っていれば、職業によって任意整理の可否が問われることはほとんどありません。

 例えば、パート主婦やフリーター(アルバイト)、年金生活者でも任意整理をすることは可能です。債務者自身には収入がない場合でも、家族の支援や家計のやりくりで毎月の返済を続けられるのであれば、任意整理ができるケースもあります。

生活保護を受けている(受給申請を検討している)場合

 生活保護受給者については、基本的に任意整理はできないと考えられます。確かに、本来、生活保護の給付金は、使途について法律上の制限がなされていません。生活保護法第60条は、生活保護費の使用目的に関して、「被保護者は、常に、能力に応じて勤労に励み、自ら、健康の保持及び増進に努め、収入、支出その他生計の状況を適切に把握するとともに支出の節約を図り、その他生活の維持及び向上に努めなければならない。」と規定しており、明文で生活保護受給者の任意整理や借金返済について禁止しているわけではありません。そうすると、法理論上は、生活保護費を借金の返済に充てることはできます。

 しかし、これは理屈の上での話であり、生活保護受給者の任意整理ないし借金の返済は、憲法第25条や生活保護法の趣旨に悖る行為と考えられています。すなわち、そもそも生活保護費は、国民としての最低限の生活を維持し、もって自立を助長するために支給されるものです。
 
 したがって、受給者が生活保護費を生活費以外の支払いに充てることは、生活保護受給者の最低限の生活の維持や自立を妨げうるものであり、憲法や生活保護法の目的に反した行為と考えられています。 また、生活保護費で借金返済をしていたことが判明した場合には、「指導・指示」や、最終的には「受給停止」となる可能性があります。

 以上の理由から、事実上、生活保護給付を受けている方は任意整理を行うことはできません。自己破産を選択するのが一般的です。

連帯保証人や担保がついている借金を返せなくなった場合

 保証人や連帯保証人がついている
 自動車や住宅のローンのように担保がついている
 連帯保証人をつけている借金や、住宅ローンのように担保を提供している借金は、任意整理の難しい借金の典型例といえます。 

 なぜなら、保証人や連帯保証人がいる場合、債権者は、任意整理に応じなくても、連帯保証人に請求する、担保を差し押さえるといった方法で、貸付金の残額の回収を図れるため、保証人や連帯保証人がいる場合は任意整理に応じてくれない可能性が高いからです。 

 また、すでに担保割れがあるケース(担保の売却額がローン残額よりも小さい状況)において、「担保を失っても良い」というのであれば、任意整理を実施する価値のあるケースも考えうるといえます。担保を処分しても残ってしまった借金残額は、引き続き返済を行わなければならないからです。
ただし、債務のうち住宅ローンの返済だけが苦しい場合は、個人再生という選択肢もあります。個人再生なら住宅を残しながら、債務整理をできる可能性もあります。

 自動車や住宅のローンがある場合は、債務整理を「できない」のではなく、「しない方がいい」ものとして、任意整理の対象から外すのが一般的です。

借入先が任意整理に応じてくれない場合

 任意整理は、債権者(貸金業者など借入先)と交渉によって返済額などを決めていくものです。
債権者には任意整理に応じる法律上の義務はありませんが、基本的には任意整理の交渉に応じてくれます。
なぜなら、任意整理を断られると、借金をしている側としては自己破産や個人再生といった借金の元金を免責ないし減額する方法を検討することになります。一方で、債権者の視点に立つと、自己破産されると貸したお金は戻ってきませんが、任意整理なら利息等の減額はされるものの、貸したお金の一部は戻ってくる可能性があるためです。

 このような理由で、債権者はたいてい任意整理に応じてくれることが多いです。
しかし、中小の消費者金融をはじめとする、一部の金融機関の中には、「任意整理には応じない」方針をとっている会社もあります。
安易に任意整理に応じてしまうと、金融機関にとって「株主から責任追及される」場合や、「顧客のモラル・ハザードにつながる(すぐに債務整理させてくれる金融機関とうわさがたつ)」といったリスクが生じることもあるからです。

任意整理に適していない借金

 税金や公共料金の滞納などで返済を迫られた場合は任意整理できません。
 ここで任意整理できるものとできないものをまとめます。

【任意整理できるもの】
   カードローン
   個人からの借金
   会社間の借金
   ローン(住宅・車など)
   クレジットカード(分割・リボ)
   ギャンブルで作った借金(借金の理由は問われない)

 クレジットカードの支払いは、任意整理できないと思われがちですが、任意整理が可能です。キャッシングやリボ払いは「借金」に分類されます。
 ただし、任意整理するとクレジットカードは強制解約され、クレジットカードが使えなくなり、約5年は新規のカードも作れなくなります。自動車や住宅ローンは、任意整理の対象にならないわけではないものの、「しない方がいい」といわれています。
※自動車や住宅ローンを任意整理の対象にしない方がいい理由は、先述のとおりです。

【任意整理できないもの】
   公共料金(水道・ガス・電気)の滞納
   税金(国民保険、市町村民税など)
   損害賠償(慰謝料、養育費など)

 税金の滞納は、借金には当てはまらないので、任意整理による減額はできません。
 養育費については、任意整理ではなく、元パートナーと再交渉して月々の支払額を見直すことは可能なので、弁護士に相談すると良いでしょう。

融資を受けてからほとんど返済していない借金

 取引期間が短く、融資を受けてからほとんど返済していない借金は、任意整理に応じてもらえないことの方が多いです。これまでに利息をほとんど支払っていないのに、任意整理に応じてしまうということは、債権者にとってあまりにも損失が大き過ぎるからです。
 また、融資を受けた翌月に1円も返済されていないのに、任意整理の申し入れをした場合には、「詐欺」の可能性を疑われることもあります。

 そもそも、全く返していない借金があるときには、自己破産でも免責が認められない可能性があります。
借金返済のために何度も借金を繰り返すような状況に陥ると、借りてからほとんど返していない借金が増えて、「すぐに債務整理できない」こともあるので注意が必要です。

すでに借入先から差押え等の法的措置をとられている借金

 借金の返済を長期間滞納していて、すでに借入先(債権者)が民事訴訟や支払督促を裁判所に申し立て、手続きしている場合も、任意整理ができません。
債権者が訴訟を起こす目的は、主に給与や財産を差押えることにあります。

 具体的に言うと、債権者が裁判所に訴えると、裁判所から「支払督促」が届きます。そして、この支払督促の送達を受けてから2週間以上経過してしまった場合は、交渉に応じてもらえないリスクが高まるでしょう。支払督促送達から、2週間の間に債務者が異議を述べない場合には、債権者はすぐに差し押さえなどの強制執行を申し立てることができるのです。また、差し押さえに至っているケースでは、そのまま差し押さえを続け、残元金を回収した方が、債権者にとって有利です。

まとめ

 借金が思うように返せないという状況は、誰にとってもつらい状況です。
「任意整理はできないから諦めるしかない」、「自己破産だけは回避したいから、自力でなんとかしよう」と考えて問題をひとりで抱え込んでしまうと、返済のために借金を繰り返す自転車操業や、闇金からの借金をするといった、さらに深刻な状況に陥る原因にもなりかねません。

 任意整理ができるかどうかを、一般の方が判断することは、簡単なことではありません。ご自身の判断で「任意整理できない」と決めつけてしまわずに、借金の返済に悩んでいる方は、お早めに、当事務所の弁護士までご相談下さい。

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