自己破産をすると、持っている全ての財産が債権者への弁済の原資に充てられてしまうと考えている方もいらっしゃるかもしれませんが、この点について、誤解も多く、手元に残すことができる財産があります。そのような、破産者(自然人の破産者)が自由に管理処分できる財産のことを「自由財産」といいます。
たしかに、破産法では破産者の財産は全て処分し、換価したお金を債権者に配当することが原則とされています。しかし、その一方では処分する必要のない「自由財産」というものが認められているため、自己破産をしてもあらゆる財産が引き揚げられるわけではありません。
今回の記事では、自由財産とは具体的にどのような財産のことをいうのか、ついて詳しく解説いたします。
自由財産とは
自由財産とは、自然人破産者の財産のうち自己破産をしても処分されず、破産者が自由に管理・処分できる財産のことです。自己破産をして免責が許可されると、全ての借金の返済義務が免除されます。
しかし、無条件に免責を許可したのでは、債権者との間で著しい不公平が生じてしまいます。そこで、免責を許可する前提として、破産手続開始時に破産申立人が有している財産は原則として破産財団に組み入れられます(破産法第34条第1項)。そして、破産手続開始決定後、破産財団に属する財産ついて管理処分権を有する破産管財人が、当該破産財団を換価処分し、債権者等に債権額に応じて平等に配当することになります。
もっとも、生活の再建のために必要な最低限の財産まで没収してしまうと、自己破産をした人は生活再建を図るどころか、明日の生活さえままならなくなってしまい、「経済生活の再生」という破産法の目的(同法第1条)を果たせなくなってしまいます。そこで、破産法上、破産申立てをしても持ち続けられる財産(没収されない財産)が定められています。この破産申立後も生活に必要不可欠なものをはじめとする一定の財産のことを「自由財産」といいます。
なお、会社などの法人には自由財産という制度はありませんので、あくまでも個人の場合(個人事業主を含む)にだけ認められた制度です。また、自由財産が観念されるのは、あくまで管財事件においてだけであり、同時廃止事件では自由財産は観念できません。
自由財産として手元に残せるもの
自己破産をした後も、自由財産として手元に残せるものは、以下のとおりです。
1. 破産手続き開始後に取得した財産(新得財産)
2. 99万円以下の現金
3. 差し押さえが禁止されている財産(差押禁止財産)
4. 裁判所が「自由財産の拡張」と認めた財産
5. 破産管財人が「破産財団」から放棄した財産
1. 破産手続き開始後に取得した財産(新得財産)
破産財団に組み入れられる財産は、破産手続き開始の時点で破産者が所有していたもののみです(破産法第34条1項)。逆にいえば、破産手続き開始後(裁判所が破産手続開始決定を出した後)に破産者が取得した財産は債権者への配当の引き当てとならず、破産者の自由財産となり、この自由財産のことを「新得財産」といいます。
たとえば、破産開始決定後に破産者が受け取る給与、賞与、退職金や贈与された財産、相続で取得した財産などが新得財産に当たります。
2. 99万円以下の現金
破産法上、99万円以下の現金は自由財産とされています(同法第34条3項1号)。ただし、ここにいう「現金」には預貯金は含まれないので注意が必要です。意外に思われるかもしれませんが、実は、現金は手元に残すことができます。
破産手続は債務者の経済的更生を図る手続でもありますので、生活再建のために必要な財産を手元に残すことが認められています。ただし、もともと現金ではなかったもの、不動産、預貯金、保険、車、貴金属、宝飾品などが、申立て直前や開始決定直前に現金に変わっている場合は、当然に現金としての扱いが受けられない場合がありますので、注意が必要です。
3. 差し押さえが禁止されている財産(差押禁止財産)
差し押さえが禁止されている財産も、破産法によって自由財産とされています(同項2号)。主な差し押さえ禁止財産として、生活に欠かせない衣服、寝具、家具、家電、その他の日用品などの「動産」が挙げられます。
「債権」についても、給与や賞与、退職金を受け取る分のうち4分の3に該当する部分は差押えが禁止されています(民事執行法152条)。ただし、給料や賞与の手取り金額が44万円を超える場合には、33万円だけが差押禁止債権になります。
また、退職金であっても、次のものは全額差し押さえることができません。
● 確定給付企業年金
● 確定拠出年金
● 社会福祉施設職員等退職手当共済法に基づく退職金
● 中小企業退職金共済法に基づく退職金
さらに、国民年金、厚生年金、健康保険、そして、生活保護給付金のように社会保障のために受給する権利は基本的に全額が差押えの対象外とされており、破産をしたとしても、手元に残すことが認められているものが幾つかあります。
4. 裁判所が「自由財産の拡張」と認めた財産
自由財産の範囲は、裁判所の判断で拡張されることもあります(同条4項)。東京地方裁判所の運用では、以下の財産については破産者からの申し立てがなくても原則的に自由財産の拡張を認めることとしています。
<自由財産の拡張・東京地裁>
● 残高20万円以下の預貯金(複数口座ある場合は合算して20万円以下)
● 見込額が20万円以下の生命保険解約返戻金(複数口ある場合は合算して20万円以下)
● 処分見込額(評価額)が20万円以下の自動車
● 居住用家屋の敷金債権
● 電話加入権
● 家財道具
● 支給見込額の8分の1相当額が20万円以下(支給見込み額が160万円以下)の退職金債権
● 支給見込額の8分の1相当額が20万円を超える退職金債権の8分の7相当
※例えば、退職金の見込み額が240万円なら、原則として、210万円が自由財産拡張の対象となります。
東京地方裁判所に限らず、他の裁判所でも、原則的に自由財産の拡張を認める財産の範囲をあらかじめ定めています。ただし、各裁判所の運用によって行っているため、その範囲は裁判所により異なっています。
5. 破産管財人が「破産財団」から放棄した財産
破産財団に組み入れられた財産であっても、売却することが不可能または困難である場合や、管理・処分のために高額の費用がかかるような場合には、破産管財人が破産財団から放棄することがあります(同法第78条2項12号)。
たとえば、次のようなケースです。
破産をする前に、父親が亡くなり、過疎が進んだ地域にある田舎の家と骨董品を相続したAさん。査定を取ってみたところ、その価値は、あわせて30万円でした。
本来であれば、この不動産はお金に換えられ、そのお金が債権者に配当されます。しかし、過疎の進んだ地域だと、骨董品や美術品などで限られた愛好家にしか人気がなく、容易に買い手が見つからないようなものは、簡単には売却できないかもしれません。そうなると、いつまで経っても破産手続が終了しません。
そこで、破産管財人は裁判所から許可を得た上でこれらの不動産を破産財団から放棄して、破産者の手元に戻すのです。その際、場合によっては売却代金相当額(上記の例では30万円)を支払う必要があります。
まとめ
破産といえば、破産者の財産が根こそぎ奪われてしまうというように思っている方がしばしば見受けられますが、それは誤ったイメージです。本記事で詳述したとおり、自己破産をしても、裁判所から「自由財産」の拡張が認められ、意外に多くの財産が手元に残る可能性があります。当事務所では、ご依頼者様のご事情に丁寧に向き合い、最善の方法をご提案し、再スタートのお力添えをさせていただきますので、お悩みの際は、ぜひご相談ください。