交通事故の時効

はじめに

 交通事故の被害に遭った場合には、交通事故の加害者に対して、損害賠償請求を行います。交通事故の内容や程度によっては、加害者への損害賠償請求まである程度の時間を要することもありますが、いつまでも損害賠償請求が可能であるとは限りません。民法では、一定の期間が経過すると、法律上の権利や義務が消滅するという、「時効」という制度が定められているためです。そのため、交通事故による損害賠償請求を行う際には、この「時効」の問題に注意しなければなりません。
 交通事故の時効は、物損事故(車両や物に損害が生じた場合)なら3年または20年、人身事故(けがをしたり、死亡した場合)なら5年または20年が期限です。時効期限が過ぎてしまうと、損害賠償請求権を失ってしまい、損害賠償金を請求できなくなってしまうので、時効成立前に適切な対応をとる必要があります。
 今回は、交通事故の損害賠償請求権の時効について、具体的に時効の起算点や期間、時効の更新並びに完成猶予について詳しく解説いたします。

時効の期間

 交通事故の被害に遭った場合には、どのような請求をするのかによって、時効期間が異なります。 

加害者に対する損害賠償請求
■ 物損事故の場合の時効期間は、3年または20年です。
■ 身事故の場合の時効期間は、5年または20年です。
■ 改正民法との関係

 なお、令和241日には、交通事故における損害賠償にも影響を与える民法の改正が行われました。改正前民法では、人身事故と物損事故のいずれのケースでも、時効期間は加害者の判明後3年(加害者不明の場合は20)と定められていました。しかし、民法改正により、人身事故については加害者の判明後5(加害者不明の場合は20)が時効期間であると定められました。また、改正民法の施行日である令和241日の時点で改正前民法による時効が完成していない場合にも、改正民法の5(加害者不明の場合は20)の時効期間が適用されます。

自賠責保険会社に対する被害者請求
 交通事故の被害者は、「被害者請求」という形で、加害者が加入している自賠責保険会社に対して、直接損害賠償額を請求することもできます。加害者が任意保険に加入していない場合には、自賠責保険会社に対する被害者請求によって損害の回復を図ることになります。
 ただし、被害者請求で受け取れる金額には上限があり、その金額は被害者にとって不十分であることがほとんどです。残りの金額を求める場合は、示談交渉にて加害者側の任意加入の保険会社に請求しましょう。加害者側の任意加入の保険会社に請求する場合、時効は5年です。
 自賠責保険会社に対して被害者請求をする場合の時効期間は、3年です。改正民法の損害賠償請求の時効期間と自賠責保険会社に対する被害者請求の時効期間は異なりますので、被害者請求をする場合には、早めに手続きを進めると良いでしょう。

時効が開始されるタイミング

 時効期間は、時効の起算点からスタートします。

1)時効の起算点の考え方
 時効の起算点とは、どの時点から時効期間がスタートするのかという問題です。時効の起算点は、民法上、「損害および加害者を知った日」の翌日と定められています。一般的な交通事故の場合には、交通事故発生直後に加害者を知ることになりますので、事故発生日の翌日から時効期間がスタートします。

 他方で、加害者がわからない当て逃げ事故やひき逃げ事故の場合には、その後の警察の捜査によって加害者が特定された翌日から時効期間がスタートします。そして、警察の捜査によっても加害者が不明であるという場合には、いつまでも時効が成立しないわけではありません。事故の翌日から20年で時効となってしまいます。

2)損害によって異なる時効の起算点
 基本的に、「損害および加害者を知った日」の翌日から時効はスタートします。しかし、後遺障害が残った事案のときは、時効の起算点は、症状固定日の翌日となります。このように、事故の種類や請求する損害の内容によって、時効の起算点の考え方は異なるため、注意が必要です。

 時効の注意すべき点は、期間が過ぎてしまうと一切請求ができなくなってしまうということです。時効の期間が過ぎようとしていることを誰もわざわざ教えてはくれません。たとえば、300万円の権利があったとしても、時効の期間が過ぎてしまうと1円も請求できなくなってしまいますので、そのような事態を防ぐために、早めに手続きを進めるのが良いでしょう。 

事故の種類

時効の起算点

時効期間

物損事故

事故の翌日

3年間

人身事故(傷害のみ)

事故の翌日

5年間

人身事故(後遺障害が残った)

症状固定日の翌日

5年間

死亡事故

死亡日の翌日

5年間

加害者が判明しない事故

事故の翌日

20年間

後日加害者が判明した場合
※いずれか早い方

加害者を知った日の翌日

5年間

事故の翌日

20年間

時効を止める方法はあるのか

 示談交渉が難航し、後遺障害認定審査の結果通知がなかなか出ない間に時効の完成が迫っているという場合には、法律上、時効期間のカウントをリセットする方法、または、時効を止める方法があります。

① 時効の更新:改めて時効期間のカウントをゼロからスタートする制度
時効の更新とは、時効の更新事由が認められた時点で、それまでの時効期間をリセットし、ゼロから改めて時効期間のカウントをスタートするという制度です。時効の更新は、平成30年の民法改正によって名称が変更になったものであり、以前は「時効の中断」と呼ばれていた制度です。

● 債務者の承認(民法第152条1項)
 交通事故の損害賠償請求権の消滅時効については、債務者(交通事故の場合、加害者など)の承認により、それまで進行していた時効期間がリセットされ、その時点から時効が更新されます。

● 裁判上の請求(同第147条1項1号・2項)
 確定判決によって権利が確定したときから時効が更新され、その後10年間は時効が完成しません。
 たとえば、交通事故の損害賠償請求(慰謝料請求を含む)を認容する判決が確定した場合、時効が完成するのは判決確定日の翌日から10年が経過した後となります。

● 支払督促(同条1項2号・2項)
 裁判所に申し立てた支払督促の確定によって時効が更新されます。

● 強制執行(民法第148条1項2号)
 強制執行の手続きが終了したときから時効が更新されます。

② 時効の完成猶予:時効期間のカウントが一時的にストップする制度
 時効の完成猶予とは、時効の完成猶予事由が認められた時点で、時効期間のカウントが一時的にストップするという制度です。時効の完成猶予は、平成30年の民法改正によって名称が変更になったものであり、以前は「時効の停止」と呼ばれていた制度です。
 代表的な時効の完成猶予事由としては、以下のものが挙げられます。

● 催告(民法第150条1項)
 加害者に対して内容証明郵便などで支払いの請求をした場合には、催告の日(この場合は請求を行った日付)の翌日から6か月間時効の完成が猶予されます。
 ただし、何度も催告を繰り返しても時効の完成猶予の効果が延びることはありませんので、時効の完成が猶予されている間に、裁判上の請求などをしていく必要があります。

● 裁判上の請求(同第147条1項1号)
 訴えの提起によって時効の完成が猶予されます。その後、訴えの却下や取り下げがあった場合には、そのときから6か月間、時効の完成が猶予されます。

● 支払督促(同第147条1項2号)
 裁判所に支払督促の申し立てを行った場合、支払督促手続きが終了するまで時効の完成が猶予されます。

● 強制執行(同第148条1項1号)
 裁判所に強制執行の申し立てを行った場合、手続きが終了するまで時効の完成が猶予されます。なお、強制執行の申立てを取り下げた場合、または取り消された場合は、その時点から6か月間時効の完成が猶予されます。

● 仮差し押さえ、仮処分(同第149条1号・2号)
 仮差押えや仮処分の手続きを行った場合、手続きの終了時から6か月間時効の完成が猶予されます。

時効成立後であっても請求できるケース

 時効は、時効期間が経過すれば自動的に損害賠償の権利が消滅するというわけではありません。時効によって権利が消滅するのは、当事者から時効の援用があった時点となります。時効の援用とは、時効によって利益を受ける人が時効の完成を主張することです。消滅時効の場合は当事者からの援用があって、初めて権利消滅という効果が生じます。

 例えば、交通事故の加害者は被害者に対して損害賠償の責任を負い、時効が完成すれば、責任を免れるという点で、利益を受ける人にあたります。そのため、加害者から時効期間経過後に「時効なので支払いません」といった主張があった場合には、時効の援用により、被害者の損害賠償権は消滅することになります。この制度の裏を返せば、当事者が援用をしなければ、時効期間が経過したとしても、損害賠償請求をすることは可能ということです。

 また、時効期間経過後に加害者側が損害賠償に応じる旨の回答をした場合には、法律上、加害者が時効の完成により得られた利益を放棄したと評価できる可能性があります。この場合には、時効の利益を放棄した日から新たに5年間(人身事故の場合)の時効がカウントされますので、再び、損害賠償の請求が可能となります。

まとめ

 民法改正により、交通事故のうち人身事故の加害者に対する損害賠償請求権の時効期間が3年から5年に延長されました。この改正によって、加害者が特定できている場合であれば、慰謝料請求権などの人身損害に対する請求権が時効にかかる不安や心配はかなり軽減されることになりました。
 ただし、後遺障害が生じるような重大な事故の場合には、示談成立までに相当な期間がかかることもありますので、時効についても意識しておくことが大切です。弁護士に相談することで、3年で時効にかかる物損の示談交渉を優先し、人身損害については自賠責保険に時効中断の申立てを行うなど、時効にかかるのを防ぎつつ、柔軟な措置をとることが可能です。交通事故から期間が経過しており、時効が心配な方は、まずは当事務所までご相談ください。

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